「あんにゃろう、どこ行きやがった」
SMIたちが去ってしばらくあとの夜中。
私生活でちょっと嫌なことがあった中年の酔っぱらいが、腹いせに以前近所で見かけたホームレスでもいじめてやろうと、酒瓶片手に街角を訪れていた。
けれども標的の姿はなく、周りには他の人影もない。彼は知るよしもなかったが、件のホームレスとはコリンであった。
「ちっ、つまらねえ!」
男は酒をラッパ飲みしながら、ある建物の外壁に寄りかかる。
ふと。
そこの壁面。自分の横に、人の形のような黒い染みが月明かりで浮かび上がった。
酔っぱらいは喜んだ。
「へへ。こいつぁ、おあつらえ向きだな。殴るのはてめぇで勘弁してやらあ!」
男は酒瓶を振り上げ、壁の影へと叩きつけた。
「――ッ!」
割れた瓶の破片で手を僅かに切ってしまった。
血が一滴。壁面に付着した。
それは、吸い込まれるように影に没した。
「ちっ、ただの染みの癖に抵抗しやがって!」
酔っぱらいは壁を蹴ろうとしたが、突き出した足首は何者かにつかまれた。
ミイラのような手だった。
「……ただの人間が、抵抗するなよ」
それは壁面の影から這い出てきた、骨と皮だけのレスタトによる返答だった。
酔っぱらいは蒼白となり、断末魔を上げた。
数秒後。
酔っぱらいがミイラとなって地べたに転がり、傍らには健康な肉体を取り戻した全裸のレスタトがいた。
「悪いなSMI、生命の危機は自認したこともあるが。復活は疑わなかったんだよ」
とりあえず酔っぱらいの身ぐるみを剥いで羽織り、彼は独白する。
「いい機会だ。目障りな連中にも死亡を偽装できた」
そして死者の衣を纏った彼は跳躍、悠々と満月の内部に消えていった。
「また会おう。シャルロット……」
そう、残して。