事態に気付いたモーゼスやヴァンパイアを除く人々は、デイビッドと一緒に彼を救った人物を呆然と眺めた。
「……ヘルシング、おまえ……」
デイビッドの呟き通り、そこには落命したはずのヘルシングがいた。
「よそ見してる場合じゃないだろ、コヨーテ」
ヘルシングに警告されて慌ててデイビッドが放ったスウィート・ファニー・アダムスは成功し、一体のジャンシーをただの死体に還した。もう一体は避けたが、人間を超える身体能力を誇るそいつと、ヘルシングは同等の格闘を演じる。
「おいおい、どうなってんだこりゃ」
独白するデイビッドに解答をくれたのは、また一体グールを射殺したモーゼスだった。
「説明してなかったか。ダンピールは死後、ヴァンパイアになるんだ」
みなが感心し、隙をついて札を剥がすことで女ジャンシーを女教皇で葬ったヨハンナも、嬉しそうにヘルシングに目線を向けた。
だが、ヴァンパイアになりながら銀の銃弾の能力を有する強力な味方の活躍は、長くなかった。
ヘルシングが異能を込めた銃で最後のジャンシーを撃ち抜いたとき、彼もまた別方向から本物の銀の弾丸に心臓を貫かれたからだ。
誰もが唖然とし、ヘルシングさえわけがわからないといった顔でゆっくりと膝を付き、うつ伏せに事切れた。
その様を、一人だけが狂気的な笑いで見守っている。
「はははっ……ざ、ざまあみやがれ」
そいつはジャンシーに首筋を噛まれ、瀕死で突っ伏しているヴァンパイアハンターのアランだった。
「……化け物との合の子のくせに、さんざん狩りの邪魔をしやがって……気に食わなかったんだ。ちょうど……よかったぜ」
「あなた」
表情を消したヨハンナが、冷たくアランを見下ろす。
「なんだ、文句があるか?」
草を血に染めながら転がって仰向けとなり、ヨハンナを見返してアランは反発した。
「……仲間だろうが人だろうが、社会が認めない化け物としての特徴を備えた時点で、殺したって誰も問題にしないんだよ。……おれは吸血鬼狩りを認められてる。おまえらも雇い、契約したろう。……あいつはもう醜い化け物だった……くくっ、死んで当然……ふははっ、……うぐっ」
首の傷を押さえて呻くアランに、ヨハンナは静かに返した。
「そういう輩も、いますわね」
彼女の声音には特に感情はなかったが、負傷を癒やせもする女教皇も使わずにアランから離れていった。アランは苦しげに見送り、カインはやり場のない感情をぶつけるように最後のグールを一挙に粉砕した。
突然の出来事に愕然としていたあとの一行は、もはや唯一の残党となったラルヴァの群衆から襲撃され、戦闘へと戻されていった。