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Introduction

 銀行が強盗に襲われていた。

 とはいえ、客も店員も騒がない。どころか、通常営業の一場面を切り取ったかのように固まっている。彫像よろしく動かないのだ。


「楽勝だな」

 従業員による開閉途中で静止した金庫の隙間から、札束を積めたズタ袋を担いだラフな服装の男たちが出てきた。計五人、カーテンを閉めきった薄暗い店内を出口へと歩きながらだべる。


「言ったろ、鉄則オメルタなんざ眉唾だって。黄色人種の猿イエローモンキーと戦争中でそれどころじゃねぇのさ」

「誰か殺してくか?」

「先に犯してえよ」

「ぎりぎりまで両方楽しめばいい」

「だな、クローゼットの怪物にビビるガキみたいにお伽噺を信じて控えてたなんてもったいなかったぜ」


 彼らは少し前まで、能力は強いが知性に乏しいチンピラの異能者たちだった。

 自分たちの才を自覚した頃から日向に手出ししてはならないという重要性を説かれ、不良行為には出るも大それた違反はできなかった半端者。

 それが世界恐慌で失業。真面目に稼ぐことに嫌気がさし、飲んだくれていたときに偶然集った同じ不満を持つ面々で意気投合。凶行に及んだのだ。

 今この連邦様式の銀行内の一般人は、知覚範囲の生命活動を止めることができる彼らのリーダー、冷凍睡眠コールドスリープの異能者が動きを奪っていた。

 邪魔が入らないよう施錠された正面玄関へ歩みながら、強盗の一人が窓口の女性従業員につかみかかって胸をはだけさせ、別の一人は子連れの男性に拳銃を発砲した。


 ――女性は消え、レイプ未遂犯は殴られて床を転がり気絶。発砲者は当人が頭を撃たれて死んだ。


「残念なお知らせだ」

 いつの間にか、それまで銀行内にいなかった別の男が玄関前に陣取って警鐘を鳴らしていた。

 黒いスーツにテンガロンハット、三〇代前半ほどで、黒髪を顎の下辺りまで伸ばしており、無精ひげで、口にはラッキーストライクの煙草をくわえている。

 片手に握っていたさっき強盗が撃った銃を捨て、もう片腕に抱く救った女性の巨乳に釘付けになりながらも名残惜しげに足元へ寝かせる。


 突然倒れた仲間たちと侵入者に驚き、残る三人の強盗が足を止めた。

「だ、誰だてめえ!」

 うち一人、リーダー格の冷凍睡眠が吠える。


「お待ちかねの怪物ブギーマンだよ」

「て、鉄則破って来るのがこんなオッサン一人か?」

 侵入者による回答に、別の強盗が拳銃を向けて怖気を振るいつつ喚く。

 拳から突き出した親指で、ブギーマンは玄関たる両開きの大扉を示して教える。

「表に連れもいるぜ、銀行内でおれが動けるようサポートしてるが」


「コヨーテ、さっさとしろ!」ほぼ同時、背後の扉を挟む外から苛立つ声ががなった。「限界だ! なんらならおれに殺らせろ!」

「だからダメなんだよ魔法円マジックサークル」コヨーテと呼ばれたブギーマンは、タバコを捨てて踏み潰しながら返した。「気に食わねえが、いきなり殺すのは連邦捜査局FBIの依頼に反する。一分、いや三十秒くれ」


 魔法円と呼ばれた連れは、強盗たちが〝休業中〟と偽の貼り紙をした玄関扉の外にいた。ことが済むまで他の客が入らないよう威嚇することと、自分や指定した特定の人物が別種の異能に害されないようにできる〝魔法円〟という特異能力故に任されたのだ。

 それでもコヨーテを冷凍睡眠から護るのが精一杯だったが。


「FBIの影だと? 」冷凍催眠が、警戒しつつも訝しがる。「そうは見えねが」

「中でも悪徳捜査官の代理ってとこかな」

 コヨーテはへらへらとしゃべる。

「前の州での金庫破りでおまえら挙げれなくてヤバいらしい。依頼受けておれらも街中の銀行張ってたんだ。鶏冠にきたんだろうな、先に見つけたら殺してもいいってお達しでよ。いちおう生け捕りの方がいいらしいが、豚箱は好きか?」


 三人の強盗は目顔で方針を決めたらしい。

 銃を向けていた一人がそれを捨てた。

 コヨーテが気を抜くや、残る一人が代わりに手の平から火球を発射した。

 自然発火パイロキネシスの異能者だった。

 続けて、銃を捨てた奴は身体の周囲に稲妻を纏って放とうとする。こちらは体内発電エレキネシスの異能者だ。

 さらに、冷凍睡眠は自分の銃を懐から抜き出す。


 対するコヨーテは無造作に振り払った手で火球を打ち消した。手中から猛烈な水流を噴出し、強盗たちをびしょ濡れにしたのだ。

 発電能力者の漏電で、当人と発火能力者は感電。なんとか跳び退いた冷凍睡眠が白塗りの天井を向く格好で転がると、コヨーテの銃スミスウェッソンのM10が額に突きつけられていた。


「ムショが嫌なら地獄に直行だ、自分を大事にするべきだったな。――暗殺完了ヒット


 宣告と血が白壁にはねた。

 きっかり三十秒だった。

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