さっきちょっとだけテレビの映像が復活して、生中継でパレ・ロワイヤルに現れた乳房も露な巨大美女を放送してた。
単純なリポーターや野次馬はそれを「聖母マリアの出現だ」とか騒いでたけど、あれって自由の女神のモデルなフランスの象徴マリアンヌでしょ。
彼女はドラクロワの絵を真似たポーズをしてから忽然と消えて、テレビもすぐに映らなくなった。
こうした異変をマヤの予言の成就と解釈する人は研究員にもいるけど、どっちにしろ妙だ。だとしたら、マヤ神話の神々が現れるはずじゃないの?
……まあ。あたしがあれをマリアンヌと解釈したのも、フランスとの関連を疑ったからだけど。
とにかく僅かに通信状況が改善したときに調べたところ、どうやら時差を無視して世界中の時計が12月23日の午前0時になってるらしい。
どこかを基準に時間が前後して、突然その時刻にあらゆる時計が固定されたみたい。
じゃあ、どこを中心とした12月23日の午前0時かといえば、あたしははっきり憶えてる。あの瞬間を目撃したからだ。
昨夜。H102の動作不良について調査中に、何気なく研究室の原子時計を覗いた。
あれは、かつてフランスが主張する本初子午線があったカナリア諸島フェロル。パリを基準にするのとほぼ同じ標準時に遊びで合わせておいたもの。
それが0時になった途端に時は止まり、あの〝大異変〟に見舞われたのだ。ネットの情報からも、世界中でその瞬間を捉えた映像と時差から割り出し済み。
そう捉えると、所長の態度の理由も解けてくる。
ふふふ、あたしってばやっぱ天才ね。
でも、たかが12歳で名誉副所長になったあたしには敵も多いし、この仮説はあまりにトンデモなさすぎる。みんなの理解を得ている余裕はなさそうだ。直接所長とコンタクトを取る必要があるだろう。
……なんだか、急に静かになった。
だいぶ前から研究所の外は人影が消えてたし、扉も窓も開かなくなって別な棟にも移動できなくなったけど。またそんな変化があったのかな。
――どうやらそうらしい。
見覚えのないレポートが部屋の隅に現出した。内容次第で追記するかもしれない。