お茶の時間――
傍らで待機している執事のラウルも、しっかりした侍女長らしからぬ様子に唖然としていた。
「どうしたの、バタバタと。あなたらしくない」
「お嬢様。お葉書が届いておりました」
葉書を差し出しながらのマリーの動揺具合を見て、さすがのナディアも緊張感を持ってそれを受け取る。
――まさか、パパから……?
――一度、顔を出せとかなんとか……
首都マカデミアに住む父から来たものだと思い、送り主の蘭を見たナディアは、拍子抜けしたように「なによ、心配して損したわ」と、葉書を放った。
「ああ、大事なお葉書になんてことを!」
放り投げられた葉書をキャッチしたマリーが、非難した。
「どこが大事なのよ。どういうつもりでこんな葉書を送り付けてきたのよ、あの女」
眉間に皺をよせ、月餅をもふもふと
その姿は品性がなく、とても令嬢とは思えなかった。
「あの女などと、汚いお言葉……。ナディアさまのご学友の方ではございませんか。素敵なお茶会のお誘いをそんなふうに……」
「別に友達でもなんでもないわ。お茶会なんて、そんなの退屈なだけよ」
「せっかく、お友達との交流会なのですから、是非ご参加くださいませ」
「いーやーよ。わたし、忙しいんだもの。箱入り娘を集めた会合なんて、つまんない話題しかないし、なんっにも得るものないじゃないの。くっだらない、ホントに」
「忙しい……?」
会話を聞いていたラウルが怪訝そうな顔をした。
格闘技やダンスの習い事、そしてピアノなどは嗜んでいるものの、基本は暇を持て余しているように見える。
「なによ、文句ある? いろいろ考えることがあって忙しいのよ。アルテミスを捕らえる算段とかね」
「はあ……」
とはいえ、怪盗アルテミスとてそんな頻繁に現れるほど、活発な活動をしているわけでもない。
せいぜい、多くて週一とか、そんなものだった。
――いや、どう考えても忙しくはないだろう……。
と、ラウルが心の中でツッコミを入れたところで、マリーが口を開いた。
「何をおっしゃっているのですか? コミュ障のお嬢様はこういったイベントにでも参加されない限り、お友達とも触れ合う機会がありませんでしょう? お父様お誘いのパーティーなどはすべてキャンセルなさっていましたし、仰々しいのが苦手というのであれば、せめてささやかなお茶会など、と思いましたのに」
「誰がコミュ障よ! だから、そういうの嫌いなのよ。やれうちの執事が優秀でベスト執事コンテスト優勝しただの、華道のコンテストに入賞しただの、海外でスピーチしたとかなんとかって、結局は自慢。なんっにも羨ましい要素なんてないことの自慢話タレ流してくるだけよ、ほんっとバカバカしいったら!」
顔を真っ赤にして憤慨するナディアは、ラウルの視点からはどうもムキになっているようにしか思えなかった。
「とにかく、あの女の誘いってだけでも虫唾が走るのに、楽しくもない会合なんて参加する気になれないって言ってるの」
「では……参加されないとおっしゃるのですか?」
「そんなの、聞くまでもないじゃない」
はあ、とマリーはため息を吐いた。
「そうおっしゃるのなら、仕方ありませんわ」
「焼き
ジャスミンティーを飲み干したナディアは立ち上がった。
そのタイミングで、リンゴーン、と門の方で来客を報せるベルが鳴った。
「私が対応致します」
お茶のセットを片付けているマリーに申し出ると、ラウルはいそいそと門の方へ向かった。
なんだか妙に機嫌の悪いナディアから離れたかったのだ。