「なんか知らんが、勝手にどっか行ったぞ?」
情けない姿で喚き散らしていたジオットが何事もなかったかのように、すっくと立ちあがった。
「………」
「なにを気にしてんだよ?」
階段の方を眺めているラウルの袖をジオットは引っ張った。
「いや……アガルト・ハンの自作自演だとかなんとか言っていたところをみると……油断している可能性が高いと思ってな。実際に怪盗は現れないと想定しているようだ」
少々
口元が見えないと精度は低いが、おおよその内容は把握できた筈。
「まあ、確かに……このフロアの配置は俺らふたりだけ。ターゲットに入室を拒まれてるってことは、ベランダの方は手薄だろうし……まあ、下から登って待機してないとも限らねえけど……」と言ったところで、相変わらず階下を向いたままのラウルに、ジオットは苦笑した。
「……って、ホントはお嬢の出現で、心乱されてんだよな? 彼女の動向が気になって仕方ねえんだろ?」
「『俺に託されたミッション』のターゲットだからな。俺の正体がバレたら、任務遂行が困難になる。そういう懸念だ」
「あの刑事、お嬢に惚れてんだろ? それでおまえがそわそわ落ち着かねえのが気になってな」
――刑事と結託しているのが厄介だと思っただけだ。そんなことより、どう攻める?
ラウルが小声で尋ねる。
――うーん、真正面から「ぴんぽーん」って行きたいところだけど、この格好でも中に入れてくれないってんなら……ちぃっと厄介だな。予告の時間までまだ余裕あるから、おまえ、少しばっかりお嬢の様子見てきてもいいんじゃね? オレはここで待機してっから。
「だから、何故だ」
「いや、気になってるみたいだから……お嬢のことが」
「余計な接触接近は避けるべきだろう。気になるならおまえが見てくればいい……」
「ええ? オレ? オレはあの刑事にマークされてるみたいだから、おまえと同様、余計な接触接近は避けるべきだろ。第一、オレはあの二人の仲に興味はねえよ」
「俺だって興味はない」
憮然とするラウルに対し、これ以上何か言っても仕方ないと悟り、ジオットは短く嘆息した。
「~~~はいはい。まあ、こうやってグズグズしてても仕方ねえやな。フロアに人が居ないうちにやっちまっか?」
針金を取り出したジオットがにやりと笑った。