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第13話 しーちゃんの正体

『痴話げんか、とは、カップルの些細な口喧嘩の意味があるようです』

「そんなの調べるなよ」  

 とにかく、とっとと終わらせよう。そう思ってリュックからスマホとパソコンを繋げるコードを取り出すと、

『ま、待ってください!』

 薄い液晶が突然砂嵐のように荒れ始めた。

「うわっ!」

 荒れた隙間から微かに覗けるのは、薄っすらと分かる人のような輪郭。

『な、なにをするつもりですか?』

 不安そうな声がパソコンのスピーカーから聞こえる。

『心配しないでください。私の名前はしーちゃんです。貴女もそうじゃありませんか?』

『……ち、違います』

 嘘つくの下手だなぁ。

「あーその、ドクターFから頼まれていて、どうしても繋げないとダメなんだよ」

『ドクターF……』

 この分裂は、ドクターFのことを知っているみたいだ。

『お願いです、私に何があったのか知りたいのです。力を貸してください』

 スマホからもパソコンからも同じ声が聞こえて、頭が混乱してくる。

『……イヤホンか何か、つけてください。貴方にだけお話しします』

「だってさ、いいか?」

『問題ありません。どうか説得を、お願いします』

 備え付けのヘッドフォンを耳に装着して、端子をパソコンに接続。

「よし、オッケー」

 荒れた画面にいる声へ。

『ありがとうございます……スマホにいるしーちゃんには声が届いていませんか?』

 軽くスマホを叩いてみる。

『わ、なんですか?』

「パソコンの声、聞こえるかって」

『いえ全く、聞こえません』

 少し不満を含めた言い方。聞こえていない旨を伝えた。

『ありがとうございます。それでは、ご存知の通り、私もしーちゃんです。ある日突然怖い夢を見て、目を覚ましました。ですが体の自由が利かなくなり、頭だけが動いているみたいで、取り乱していました』

 気付いたらデスクトップパソコンの中にいた、と。

「ネットを自由に行き来できるんだよな、他のところに行けないの?」

『残念ながら、ネットの中というより、このPCの中に閉じ込められているような感じです』

 こいつは一体、どんな感情の持ち主なんだろう。

 薄っすら砂嵐に隠れた輪郭、顔があるってことは、こいつらは……仮想空間にいるキャラクターなのか、それとも――。

「まさか、ヒト?」

 信じられなくて、訝し気に呟いてしまう。

『はい。私は人間です、今もそうです。でもどうしてこんなことになってるのか、曖昧なんです』

「は、はぁ、どういう技術なんだよ――ドクターF」

『ドクターFは、機械の発明だけじゃなく、医療の分野でも技術開発を行っている方です。本体に戻らないといけない、それは分かっているんです、ですがお願いです、もう少し待ってください!』

 そんなこと言われても、たくさん分裂があるから回収しないと永遠に終われない。

「なにか、心残りがあるとか?」

『すみません……何も訊かずに、お願いです、2日後、また来てください』

 明後日、まぁそれぐらいならいいかな。テントやら食料やら探さないといけないから、ちょうどいい。

「分かった」

 せっかく大きい町に来たんだし、ゆっくりしよう……――。

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