ドクターFの影響力を改めて知った。
紺の高いビル、ドクターFの誇らしい。
バイクを駐車スペースにとめて、スマホを手に入る。
『大きなサービスセンターですね』
出入り口に近づけば自動ドアが開く。
「いらっしゃいませ。タチバナ様、お待ちしておりました」
丁重に頭を下げる店員が現れ、今までにない扱いに緊張してしまう。
「ど、ども」
受付カウンターには店員が複数並んで座っている。カウンターを挟んで向かい合うように座っているのは、この町の住民だろう。
他のサービスセンターとは違うのは、パソコンのスペースが全て個室だということ。あれだ、ネットカフェみたいな感じ、併用しているのか?
個室から一人、作業着の男が出てきた。金に染めた短髪で、細身の体格。どこか物憂げな表情のままリュックを肩に提げて足早に外へ。
「本日はどういったサービスをご利用でしょうか?」
「パソコンを借りたい、です」
「かしこまりました」
別の店員に案内され、今さっき空いた個室に入る。
『なにか、忘れ物ですか?』
思わずポケットを叩いた。
『私じゃありませんよ』
少し不満そうに返ってくる。じゃあ誰の声だ、デスクトップ型のパソコンに顔を向けた。
「まさか……あの、何か言った?」
声をかけてみるが、何も返ってこない。
「やっぱりお前だろ」
ポケットからスマホを取り、軽く睨んだ。
『ちゃんと黙ってましたよ』
「ウソつくなよ」
『疑うなんて酷いです! それにお前じゃありません。ちゃんと名前で呼んでください』
「はぁ、それ今関係ないって」
『関係大ありです』
「……善処するって言っただろ。で、さっきの声は」
『まだ話は終わっていません』
『あの! こんなところで痴話げんかはやめてください。SCのブラックリストに入れますよ』
俺達は思わず黙った。スマホじゃない、パソコンから確かに声が聞こえた。人のように流暢に喋っている……――。