次の町に向かう道中にある、ゴミ捨て場。
インスタントの袋や、使わなくなったエアポンプ、例のロボットに落とされたテントの残骸を穴に投げた。
中には木材やコンクリートの破片、それから色んなロボットだったガラクタと古い電化製品。
『これは不法投棄ではありませんか?』
「どこもこんな感じだろ……くぁぅぁ」
欠伸をしながら答えた。
『あのロボットもこんなところに捨てられるのですね』
「そのうちジャンク売りが分解しに来て、企業か海外に売られる。そうやって循環してんだよ」
『適切な方法で処理されるのが一番です。こんな、こんなの……あんまりです』
怒ってる、のか?
「えぇと」
『もう行きましょう。長くいたくありません』
なんでスマホに指示されなきゃいけないんだか、まぁ長居するつもりはないけどさ……。
ヘルメット、グローブとブーツの緩みを調整してから電動バイクに跨る。
小さく電子音が鳴る、右ハンドルを捻っても加速は静か。
小道から抜けて、亀裂の入った道路に出た。誰も通らない寂しい、国道っていうやつ。
ガードレールで区切られた歩道と、擦れてほとんど見えない横断歩道の白線、へし折れた信号機と、半分のところで崩れた歩道橋。崩れた破片は道路に散っている。
それを躱しながら、バイクを走らせていく。
『あー、あー、あーマイクテスト、マイクテストぉ』
どこからか、反響して聞こえるマイク音。思わずブレーキを握った。
渇いた声で、
『こちら、81地点、廃棄所周辺にて、救助求む、救助求むーだれか聞こえてるかなぁー』
内容としては困ってる感じ、でも声は呑気だ。
「81地点の廃棄所ってさっきのところだよな……この近くっぽい」
『困っているのでしたら助けるべきです』
オレもずっと困ってる。肩をすくめて、周辺を探ることにした。
掠れた道路標識は長年放置されたせいか、さすがのアルミニウム合金も腐食している。
根本からポキッと折れた曇ったカーブミラーが視界に入ったのと同時に、謎の丸い物体を見つけた。
カーブミラーの棒部分に押しつぶされ、飛び出た線から電気が漏れている。
先程のマイク音声とよく似た声が、丸い物体から聞こえ、
『ヘルプ、ヘルプ、ヘルプミぃー』
音符がついてもおかしくないほど歌っている。
「……なんだあれ?」
スマホを手にして、レンズを向けた。
『あれは、恐らくボール型のドローンだと思います』
「へぇー初めて見た」
近づくと、ボール型ドローンのレンズと目が合う。
『おっ、純粋ボーイ。いいところに、ドローンを踏んでる障害物をどけてくれい』
「えーと、こう?」
カーブミラーの棒部分を一度屈んで掴み、力んで持ち上げる。意外と軽く、拍子抜けしてしまう。
『サンキューサンキュー、ダンケダンケ』
気の抜けることを言いながらドローンはすぐに動いた。
ドローンは漏電しながらも浮き上がり、俺の目線より上へ。
カーブミラーを放り落とし、腰に手を当て、ドローンを見上げる。
『すまんなー助かった助かった。このドローンは身軽なもんで耐久力がない、さっきの物もどけられないんだ』
「あぁーそうですか、それは災難で……じゃあもういいですか?」
ドローンに背中を向けるも、すぐに回り込まれてしまう。
『おいおい待たんか、お礼ぐらいさせてくれい。私のラボがある。そこまで案内するから、おいでおいで』
うわ、怪しい……ドローンを睨んでいると、
『お名前はなんというのですか?』
なんだってこいつは誰彼問わず興味を示し、さらに声をかけるんだろう。
『おや、この声、ほうほう』
ドローンは腰元まで下りてきて、スマホをジロジロと映す。
「うわ、ちょっとなんだよ!」
手で掃う動きをすると、丸いドローンは軽々と躱し、またも頭より上へ浮遊。
『こんなところで会えるとは思わなかったな……元気そうでなにより、さぁさぁおいで、お前さんのことも訊きたい。追いかけてこいこい、私のラボはこの近くだ』
そう言ってドローンが先導を始める。
こいつのことを知っているような口ぶり。もしかしたら、ドクターFかも……小走りでバイクに戻り、ドローンを追う。
『彼が、例のドクターでしょうか?』
「かもね、とりあえず行こう」
電子音は静かに響き、右ハンドルを捻れば加速する。ふわふわと浮遊し前進していく丸いドローンを追いかけた。