目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第2話 うるさいスマホ

『間もなく、目的地に到着します』

 感情のない謎の声が、もうすぐ着くことを知らせる。

 50キロの道中は、ニュータウンから飛び出した時と同じ、道路がでこぼこになって、道路標識がへし折れ、さらに信号機が破片を散らして道路を横断していた。 

『ホテルに泊まることもできます』

 ついでにと検索されたホテルの名前が地図に浮かび上がる。

「いや、別に……ホテルはいらない」

 このAIは一体何だろう、しーちゃんっていう名前がまた不気味すぎる。

 アプリじゃないならウイルスでもエラーでもない、らしい。

 とにかく、サービスセンターに行って原因を突き止めよう。

 前回とよく似た骨董品レベルの家電が大量に積まれた道の両脇。 

 骨董品ともいえる電化製品の山を、徐行しながら眺めていると、人影が見えた。

 右手と右足でブレーキを踏んで、ゆっくり端に停める。ジェットヘルメットのシールドを上げて目を凝らす。

 年の近い女の子だ。

 なんでまたジャンク山のところにいるんだろう、ジャンク売りでもなさそうだし、何よりかなり危険だ。

『最近電化製品の雪崩に巻き込まれて亡くなるケースが多いようです。ネットニュースに掲載されています』

 勝手にスマホの中を探られているみたいで気持ち悪いな。 

「あーうん……まぁ」 

「だれっ!」

 うわ、気付かれた。

 おさげの女の子、上着を何枚か重ねて着てる割に下は薄手のズボン。

 釣り目で睨みを利かせてる。

「ご、ごめん。あーえと、いつ崩れてもおかしくないから、危ないよ」

「知らない人……何の用? 企業の人間?」

「違う。オレは、その色々あって、シルバーシティを目指してて、休憩で寄ろうと――」

 なんて説明すればいいのか分からず、ちぐはぐに伝えてしまう。

 企業の人間じゃないことだけは、ハッキリ断言できる。

『メイ、この言動、心配してくれてます。きっと親切な方ですよ』

 明るい声がどこからか聞こえた。

 スマホじゃない。

「え、今の……どこから」

「なんでもない! 私は大丈夫だから、あっち行って!」

「う、うん、気を付けて」

 まぁ町の子だし、慣れてるのかも。バイクを走らせ、町に入る。 

 ただ、誰の声だったんだろう。

『ノアさん』

「……」

『ノアさん』

「……」

『ノア・タチバナさん、聞こえていますか』

「はぁ、聞こえてるよ」

 喋ってるところを見られたくないから、小声で答える。

『お願いがあります』

「なに?」

『先程の所まで戻ってください』

「いやいや、どうして?」

『必要なことです。ノアさんに依頼したいことがあります。それはとても重要な事です』

 そんなこと言われても、さっきの子は近づいてほしくなさそうだったし、よそ者が関わるのもなぁ。

「今はとにかくサービスセンターに行かせてくれ」

『分かりました。ですが出発する前に先ほどの地点まで戻ることを推奨します』

 しつこい……。

 統一された白黒のコンテナをくっつけた外観のサービスセンター前にバイクを停める。

 スマホをホルダーから外して、店内に入った。

 内装も一緒。壁際にパソコンがいくつかあって、中央奥にカウンターがある。

 店員は足を組んでカウンターの台に乗せていた。

「あーいらっしゃい」

 すぐ気付いて、カウンターから足を下ろした。

「あのー」

『端末を繋げるコードをお借りできませんか?』

 言葉を遮る女性の声。

「……端末のコード? 別にいいけど、レンタル料いるよ」

「あのいらな」

『いくらでしょうか?』

「1時間500円」

 充電より高いじゃん。

『ノア・タチバナ様』

 フルネームで呼ばないでくれ。

「あの! スマホなんですけど、異常ないか見てくれませんか?」

 レンタル料を払う前に、とにかくこの謎のAIみたいなのを排除してほしい。スマホをテーブルに置けば、店員は目を丸くさせた。

「異常ってどんな感じ?」

「えぇっと、別のサービスセンターで譲り受けたんですけど、起動させたらAIが勝手に話してきて」

「AIが勝手に?」

『私はAIではありません。しーちゃんと申します』

 スマホから聞こえた自己紹介に店員は案の定驚く。

「と、とにかく、調べてください! あと、バイクの充電お願いします!」

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?