「……今度は船だってさ」
人目も気にせず、スマホに話しかけた。
周りは電波にやられたおかしい奴だと思って、見向きもしない。
ジャンク品の山が広がるこの国を、懐かしむ日が来るといいけど……。
黒い海に浮かぶ客船を前に、しゃがみ込み、電動オートバイの充電を待っていた。
『充電が完了しました』
端末から発せられたAIアナウンスに、コードを引き抜いた。
充電用コードを巻いてリュックに戻す。
「よし行くか」
客船のスロープに向かって電動オートバイを押し歩く。
ふと、立ち止まり、あまりにも短く、濃厚な思い出を残してくれた故郷を目に焼き付けた。
文字が掠れて見えなくなった道路標識がへし折れ、道路は亀裂にまみれ、でこぼこしている。
木々が枯れ、丸裸に削られた山々の跡地。
黒い波がぶつかる岸壁。
さようなら――。