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第三十二話 だったら話は変わります

 折角考えたのに、と少しだけ不貞腐れていると、今度はイェッタが私の横を通りすぎオスキャルの方へと進む。

 そして私の方を見て少しだけ口角をあげた。


「今度、ミックのところで夜会を開催いたしますの。その時、オスキャル様にエスコートして頂きたいんです」

 まるで私に見せつけるように令嬢側であるイェッタがそんなことを言い出し、私もオスキャルもぽかんとした。

「貴女は平民ですし、貴族の夜会なんて出たことはないでしょう? どうせ休まれるのでしたら、一日だけお貸し願えない?」


 自国の令嬢を自国の騎士がエスコートするのは決しておかしなことではない。

 実際は平民ではないものの、私が自身が『幽霊姫』と呼ばれていることを理由に貴族の夜会含めた社交全般に不参加だったということも事実だった。


「貴女、恋人というわりにはオスキャル様のこと、全然知らないじゃない。自分から持ち出した勝負で引き分け、それも駄々を捏ねての引き分け。見苦しいわ」

(それも事実、だけど)

「別に恋人の座を奪おうとは……流石に思ってませんわ。でも私は、私はずっとオスキャル様だけをお慕いしておりました! 国の宝であるソードマスターの貴方に一令嬢がこんな……それも令嬢から言うのはマナー違反かもしれませんが、それでも! 私の方が貴方を想っております! だからっ」

(でも)

「私だって! 想ってるわよッ!」

 私が叫ぶように割り込んだせいで、その場がシン、と静まりかえる。

 だがそんなこと、気にならなかった。


(オスキャルは、嬉しいって言ってくれたわ)

 その言葉が私だって嬉しかったの。だって知らないなら、これから知っていけばいいということだから。私たちには知ってくという未来があるということだから。


「私だって想ってるわ。イェッタに負けないくらい、想ってるもの」

「そんなの、口ではいくらでも……」

「その夜会、出るわ」

「えっ!? エヴァ様が夜会に!?」

 思わずといった風にオスキャルが驚きの声をあげるが、そんな彼の声を無視し私はただただイェッタの方をまっすぐ見ながら口を開いた。


「会場で会いましょう、その時どちらが本当にオスキャルに相応しいか、証明する。もしそれでイェッタに認められなければ、オスキャルの隣は譲ってもいいわ」

「相変わらずの上から目線が気になるけど……それ、私が認めないと言うだけで会場でのエスコートも、ダンスも、していただけるってことなの」

「そうよ」

「ちょ、エヴァ様!?」

「他の誰でもなく、私が口先だけ認めないと言うだけで? あ、も、もちろんそもそも貴女にオスキャル様は相応しくないと思っているのだけど!」

「えぇ。それでいいわ」

 彼女の言葉にあっさりと頷くと、目を見開くイェッタと目が合った。ちらりとオスキャルの方を見ると眉をひそめているし、その向こうではミック公爵令息がどこか興味深そうに私たちの方を眺めている。


(そりゃそうよね。だって判断するのは他でもないイェッタ本人なんだもの)

 彼女の本心がどうであれ、ただ『認めない』と口にするだけで私負けなのだ。イカサマ以前の問題だろう。だが、他の誰ではなく彼女に認めて貰わないとこの勝負の意味などないのだから。


「当日、会いましょう」

 私はそれだけを言い残し、その場を後にしたのだった。


 ◇◇◇


 ──そしてやってきた夜会当日。


「どうしてあんな約束するんですか!」

「ガタガタ言ってないで覚悟を決めなさい。それとも伯爵家ではダンスひとつ教えないの?」

「教わりましたよ、教わりました! 八歳の時に!」

「なら完璧ね」

「忘れとるわッ!」

 扉の向こうでギャーギャーと喚くオスキャル。きっと今頃頭も抱えているのだろう。

(そんなこと、見なくても目に浮かぶんだから)


 イェッタから聞いたオスキャルは、差し入れを持ってくる令嬢に対し当たり障りのない程度でしか応対をしないこと。

 決して冷たくはないが壁を感じるとも言っていた。

(それと同時に、差し入れの内容がたまごサンドなら、騎士仲間と一緒に笑顔で頬張る様子が見れるとも言っていたわね)

 そのギャップが可愛いのだと言っていたけど。


(本当のオスキャルはこうやって喚いて嘆いてちょっと不憫なところがいいんだから)

 きっと私だけが見れるその特権にくすりと笑みがこぼれた。


「苦しいところはございませんか?」

「えぇ。平気よ」

 優しい声掛けとは裏腹にキリキリとコルセットを締める侍女にこくりと頷く。

 実際の社交は全てサボってきたとはいえ、これでも王族の端くれだ。コルセットにだって、そしてエスコートされることやダンスだって訓練してきている。

 不安要素と言えば外で相変わらず呻いているのか嘆いているのかわからないオスキャルだけど──


「入っていいわよ」

 そう声をかけると、ゆっくりと扉が開いた。もちろん扉を開いたのは、私とお揃いの衣装に身を包んだオスキャルである。


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