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第三十一話 勝負の行方

「悔しい、まさか同点だったなんてー!」

「エヴァ様がそんなに俺の事に興味を持ってくださっていないだなんて、知っていましたが傷つきましたね」

「ぬむむ……」

 どこかからかうようにそんなことを言うオスキャルへ、私はじとっとした視線を向けながら思わず眉をひそめる。


 相変わらずの不敬な物言いね、なんて言い返してやりたかったのだが、残念ながら今回の結果は彼の言葉を事実だと裏付けるようだった。

(私の方が絶対オスキャルと一緒にいるのに)

 確実に勝てると思って挑んだ勝負だったことも関係あるが、流石にこの結果は気落ちしてしまう。


 だが知らなかったのだ。オスキャルが訓練の時はたまごサンドを好んで食べていることも、普段は第一ボタンまでしっかりと留めている首元を訓練中はほぼボタンも閉めずゆるゆるさせており、それなのに他を圧倒する能力を持っていることも。

(私は、何も知らなかったわ)


 誰よりも近いつもりでいたが、本当にただの『つもり』だったという事実を突き付けられたのだ。


「……今度からは私の好物だけじゃなく、貴方の好物もリクエストなさい」

「え? それはえっと」

「次は圧勝するために、よ! 悪い!?」

「悪くはありませんが」

 歯切れ悪くそう言うオスキャルの口元がによによと動いているのを見てますますふて腐れた気持ちになる。


「何よ! 今更こんなこと、おかしいと思ってるの!? それともあれだけ自信満々だったのにこんな結果になって愚かだとでも!?」

「言ってません、言ってませんって!」

 悔しさと苛立ちのままオスキャルの脇腹をつねろうと試みるが、オーラを使うまでもなく彼の筋肉で効果はないようだった。

 その事にぷくりと頬を膨らませた私に告げられたのは、考えてもみなかった一言。


「ただその、知ろうと思って貰えるのは嬉しいな、と」

「……嬉しい?」

(何も知らないことを怒るじゃなく?)

 こんなに毎日顔を付き合わせても何も知らないんだな、と言われるかと思っていたし、実際私自身がそう思ったのだが、どうやらオスキャルはそう思わなかったらしい。

 そしてそれと同時に、なんだか私も釣られて少し嬉しくなる。


「いいわ、次こそ絶対勝ってみせるから! 第二回オスキャルクイズはパワーアップさせていくわよ!」

 そう声高らかに宣言した私は、意気揚々と第二回開催へ向けて、イェッタへと再び手紙を書いたのだった。


 ──が。


「は? 嫌ですわよ、そんな二回戦」

 再び集まった結果、イェッタにあっさりと提案を却下されて愕然とした。


「ど、どうして!? 前回は緊張感が足りなかったと思うのよ!」

「嫌に決まってますでしょう!? これだから平民は! いえ、平民がおかしいんではありませんわ、貴女だけがおかしいんですけれどッ」

「えぇ!?」

 その散々な言われように、味方を求めて思わずオスキャルの方を見る。しかしオスキャルはというと私と目が合う寸前にスイッと視線を外してしまった。

 ならば、と今度はミック公爵令息の方を見るが、彼もしれっとどこか遠いところを見ている。

 味方のいない状況に呆然としながらも、このままでは引き下がれない。


「何がダメなのか説明して貰えないと、私だって納得できないわ。前回のオスキャルクイズをパワーアップさせたのよ、前回は良くてどうしてパワーアップはダメなのよ」

「全てがダメに決まっておりますでしょう!? 大体なんなのです! このマルとバツが大きく書かれたパネルは!」

 キッと私を睨みながらイェッタが指さすのは、企画として紙に図解したものだ。そこにはしっかり『等身大』と書いてある。


「読んだままよ。前回は答えが複数ある時に困ったもの、最初から二択にしてしまえば間違いはないでしょう? だから等身大パネルを用意したの」

「何も読んだままじゃありませんわ! 二択はいいんですの、前回は『生ハムサンドも好きだもん! これも正解だもん!』なんて駄々を捏ねられて正直面倒でしたし」

「過去は忘れなさい」

「過去というほど過去じゃないのよ。そうじゃなくて、何がどうして等身大パネルなの、正解なら地面、不正解な馬糞にダイブ、というのも意味がわかりませんわよッ」

「あら。安心して? このパネルはとても薄く作るから、令嬢の体当たりでも突き破れるわ」

「ど、う、し、てッ! 私が体当たりせねばなりませんのっ」

 バンバンと図解書を叩きながら怒りを露にするイェッタに首を傾げていると、オスキャルがわざとらしくため息を吐いた。


「馬糞はやめましょう、匂いが酷いです。あとそれ準備するの、俺とミック公爵令息ですよね? シンプルに嫌です」

「え、ボクも準備要員なの?」


(いい案だと思ったんだけど)

 企画は単純。前回のように答えが複数あるものだとどちらが正解か揉める可能性があるので、事前にオスキャルから用意して貰った問題にあわせパネルを用意し、正解だと思う方にふたりで走るというものだった。

 不正解のパネルの向こうには馬糞が用意しておき、一目で敗者だとわかる仕様である。これならば一瞬で決着がつくし、前回のパネルからのバージョンアップと考えれば妥当だと思ったのだが。


「ダメ?」

「絶対に反対ですわッ」

「俺もちょっと」

「麗しい蝶たちとはいたいけど、馬糞はボクもお断りかな」

 全員に却下されれば流石の私もこれ以上この案をゴリ押せはしなかった。


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