余裕で勝てる。そう確信しながら、私はイェッタに出す問題をパネルへと書き込んだのだった。
「第一問! 普段オスキャルが王城の私の部屋に来る時、どちらの足から踏み込んでく──」
「エヴァ様ッ!」
意気揚々にパネルを出しながら問題文を読み上げていると、私の声を遮るようにオスキャルが声をあげて私からパネルを奪う。
「ちょっと、なにし……んごっ」
そして軽く摘まめるようにと置かれていたクッキーを一枚私の口の中へと詰め込んだ。
「だめです、それは色々まずい」
「はんへよ」
「令嬢の部屋に無断で踏み込んでるってのもアレですけど。それ以前に王城のとかついてる」
「はっ」
指摘された内容に思わず目を見開く。失態だ。王城で暮らすのが当たり前すぎて平然とつけてしまった。
それに、オスキャルが言う通り踏み込むも確かにまずい。恋人ならば踏み込むではなく招かれるはず。
(恋人という前提の理解度が足りなかったわ)
私は自身の失態に苦虫を嚙み潰したような顔をしながら、新しいパネルを椅子の下から取り出した。
「い、今のは例題よ」
「えぇ? 例題という割にはパネルが見えませんでしたけれど……」
「こ、こっちが本番! えーっと、オスキャルが好きなサンドイッチの具は何でしょう!」
慌てて問題を考え直したせいで面白みはない問題にはなってしまったが、恋人ならばいっしょに食事をする機会だって多いはず。
それに私はオスキャルと毎日一緒に昼食を取っているのだ、間違えるはずがない。
(私たちの昼食にはしょっちゅう生ハムが挟まれたサンドイッチが出るのよ、つまりオスキャルがリクエストしてるに違いないわ!)
お兄様もよく執務の片手間に食べられるから、とサンドイッチを好まれているが、お兄様の具はいつも違ったものが挟まっているのも確認済み。
そして昼食を取りに行ってくれているのはいつもオスキャルだ。つまり厨房に顔を出しているのもオスキャル。生ハムのサンドイッチが好きだからとリクエストしているのもきっとオスキャル!
(この一点、貰ったわね)
ぐふふ、とこっそり笑みを溢した私がちらりとイェッタの方へ視線を向けると、彼女は一瞬だけ考え込むような仕草をしたもののそのままパネルへ書き込みをし、ペンを置いた。
回答の準備は整ったようだ。
「では答え合わせよ。私も答えをパネルに書いたから、せーので表にするのよ」
「わかっておりますわよっ」
「せーの!」
「生ハムのサンドイッチ!」
「たまごサンドですわっ」
ドドン、と回答を相手に見せるようにパネルを表向きにし、それぞれ答えを言い合う。
(勝った!)
違った回答を導き出したことに私は勝利を確信しながら、最終審判を貰おうとオスキャルの方へと顔を向けた。
「……たまごサンドです」
「嘘でしょ!?」
「やりましたわッ」
そして衝撃の回答に愕然としながらパネルを地面に落とした。
「そ、そんなはずないわよね? だって貴方、いつも生ハムのサンドイッチばかり持ってきてたじゃない」
「いや、それエヴァ様の好物でしょ」
「私の好物……っ!」
(確かにそうだけど)
「だからその、生ハムを使った色んな種類のサンドイッチを多めにしてくれるよういつも頼んでて……」
「そんなことまで!? 確かにそのまま入ってることもあれば刻んであったり、くるくると他の食材を巻いた状態で更に挟まれているという変わり種もあったけど!」
まさかそれが私のためのリクエストだったとは。
「この一点は私のものですわね」
「イェッタは、どうしてオスキャルの好きな具を知ってたのよ」
どこか得意気な彼女を恨みがましくじとっと見ながら聞くと、ハッと私を小馬鹿にしたように鼻で笑われる。
「恋人ですのにこんなこともお知りにならないのね? オスキャル様が訓練の合間に選んで食べられているのがたまごサンドですわ。色んな種類のサンドイッチを差し入れしても、選ばれるのは必ずたまごサンドなんですのよ! ついでにデザートにはアップルパイを好まれます」
「くっ、そうなの!?」
イェッタの解説を聞きながら今度はオスキャルの方を向くと、困ったように眉を下げながら「だって美味しいんですもん」とだけ言われた。
悔しい。私の方が絶対オスキャルと一緒にいるのに、彼の好物ひとつ知らなかったとは。
「次は私もたまごサンド食べる……」
「え」
「私もオスキャルの好物を食べるんだから!」
「エ、エヴァ様……!」
「なっ、ここでまた恋人マウントですの!? 私たちは差し入れはできても共に食べたりはできませんのにッ」
「次! イェッタがクイズを出す番よ、絶対に負けないんだから!」
「の、望むところですわっ」