「オスキャルだって私を上に座らせたいわよね?」
「え?」
「私のこと、上に乗せたくないの?」
目力で頷けという圧をかける。だが肝心のオスキャルはその額にじわりと汗を滲ませ、自身の人差し指の先同士をいじいじと引っ付けながら左右に視線を動かした。
「えっ、いやっ、あの、そのぉ」
「はっきりしないわね。それともオスキャルは恋人を絶対に上には乗せないの!?」
「いやっ! もちろんその、それはそれで魅力的だし興味はそのっ、なくはないですけどっ」
「なら乗せたいと言いなさいよ! そして乗せればいいじゃない!」
「でもそのっ、それはそのっ、だからそのっ」
煮え切らない様子のオスキャルに痺れを切らした私は、ハッキリと拒否されていないことをいいことに強行突破ならぬ強行着席をしようとした、時だった。
「ふたりはまだ恋人になったばかりで、人前では恥ずかしいってことじゃないかな」
「そうです!」
「それだわ!」
引っ込みがつかなくなりキャンキャンと騒ぐ私たちへまるで助け舟を出すようにミック公爵令息がそう口にする。
その言葉に全力で乗った私たちが、何事もなかったようにしれっと自身の席へ座り直すと、顔を真っ赤にして震えていたイェッタも、何故か怒ったような表情のままだが渋々着席したのだった。
そんななかなか大騒ぎで始まったお茶会だったが、始まってみればやはり高位貴族の令息、令嬢だ。マナーに自信がないと言っていたオスキャルも私とのやり取りで緊張がほぐれたのか、危なっかしいマナーなどなく、むしろ堂々としたものである。
「平民のくせにやるじゃない」
「貴女もなかなかよ」
(それに私、本当は王女だしね!)
フフン、と互いにそんなやり取りをしながら香りのいい紅茶と、瑞々しいフルーツが乗ったケーキを堪能した私たちだが、このデザートの時間が終わるということは、それすなわち決闘の時間がやってくるという意味だった。
コクリと最後の一口、紅茶を嚥下した私はティーソーサーへと音をたてないようにカップを戻す。
その動作を合図にイェッタが軽く片手をあげると、待機していた侍女たちがすぐさまテーブルの上を片付けた。
「いざ、本番よ!」
「望むところだわ!」
そう宣言すると、イェッタも同じテンションで返事をしてくれたことにちょっとした感動を覚えつつ、事前に用意していた真っ白のパネルを手渡した。
(こういう時オスキャルあ呆れた顔を向けるだけだものね)
込み上げる笑みを咳払いで誤魔化しつつ、取り繕ったすまし顔で前を見る。
手渡されたそのパネルに怪訝な顔をするイェッタ。そんな彼女と同様に、私も自分用のパネルを手元に準備した。
「じゃあ、決闘の方法を発表するわ」
「えぇ。いつでも構いませんことよ」
何に使うかわかっていないそのパネルをキュッと握ったイェッタ。私たちの間に緊張が走る。
この緊張感の中、私は声高らかに宣言した。
「好きな人のことならなんでも知っているはず! 第一回、オスキャルクイズーッ!」
「オッ、オスキャル様クイズ、ですって……!?」
「えっ、昨日夜なべして何してんのかなって思ったらそんなバカなことしてたんですか?」
「ははっ、ねぇ、この場にボクって必要だった?」
私が絶対に勝てる決闘として選んだこのクイズは、お互いに順番でクイズを出し答え合わせをするという簡単なものだ。
それにオスキャル本人もこの場にいるので、どちらの答えが正解か迷うこともない。
(令嬢同士で剣を持って決闘、なんてできないし)
もちろん令嬢同士の剣を使った決闘がないわけではない。互いに代理を出し、代理同士の勝敗でどちらが勝利かを決めるのだ。だがそうなると私の代理はオスキャルになるだろう。
ソードマスターである彼が出ればその勝利は確定的。流石にちょっとズルすぎる。
(まぁ、護衛として四六時中一緒にいるんだもの、このクイズもある意味ズルだけどね!)
オスキャルをかけた戦いに、主人であり今は恋人設定の私が負けるわけにはいかないのである。
「三点先取よ、片方が問題を出してもう片方が答える。正解なら一点、不正解なら問題を出した側に一点ね!」
「正解かどうかは……」
「もちろんオスキャルが判定してくれるわ」
「うわっ、やっぱりそうなります? まぁ問題まで考えさせられなくて良かったか」
「これは益々ボク、いらないよねぇ?」
くつくつと笑うミック公爵令息と、もうなんだか諦め顔のオスキャル。そして真剣な表情のイェッタを見ながら私は余裕の笑みを溢した。
「それ、問題を出した側が間違えたらどうなりますの?」
「え?」
「ですので、ジャッジはオスキャル様がしてくださるのでしょう? もしかしたら問題を出した側が間違える可能性もあるのではなくて?」