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第十七話 ターゲットを見つけ出せ!

 ちなみに今回オスキャルとともに合同訓練に来てくれているのは王城の若手近衛騎士たちである。流石に近衛騎士なら私の顔を知っておりこの作戦への対応がしやすかった。

 選ばれた若手は何故かみんな顔がいいが、私が選んだ訳ではないのでその謎は解けなさそうである。


 だが若手が選ばれた理由は明快だ。

 騎士の花形である近衛騎士は王族が参加する式典やパレードでの護衛を務める。当然他国へ行くときの護衛も彼らが担当するため、騎士歴が長いと彼らが顔バレするからである。そのための若手。


(まぁ、私はバレないけどね)


 ちなみに顔バレという点ではオスキャルはどこでもバレてしまうのだが、彼の護衛対象が何しろ引きこもりの幽霊姫のためか、王女が外出する時以外は基本鍛練したりと自由時間だと思われているのか、彼の隣にいる私のことを護衛対象である王女だと思う人が少ないのはありがたい。複雑な気持ちではあるが。


「早速ですが、オスキャル殿にはこちらで指導をお願いできますでしょうか」

「かしこまりました」

「では、えっと、恋人のご令嬢は危ないのでこちらへ」

「いいえ」

「「えっ」」


 私の扱いに若干戸惑いつつも安全なところに案内しようとしてくれたのか、エトホーフト国の騎士団長が声をかけてくれたが、私は大きく首を振った。安全なところまで離れてしまうと、ミック公爵令息の観察が出来ないからだ。


「エヴァ様、お願いですから離れていてください!」

「そうです、ご令嬢に危険……って、様付け?」

「あっ、いえこれは!」

「緊張しているんでしょう。ほらオスキャル、いつものように呼び捨てでお呼びなさいな」

「お呼びなさい……? 平民って聞いているが……」

「ッ、お、面白がって……、あーもー、エ、エヴァ、危ないのでいざという時に駆け付けられる最大の距離で待っていてください」


 ここぞとばかりに呼び捨てを強要すると、若干しどろもどろになりながらもオスキャルが私を呼び捨てにする。気恥しそうに視線をきょどきょどと動かしているところが可愛らしく、私はそんな彼に満足しながら再び大きく首を振った。


「いいえ。私はこれでもソードマスターの恋人なのです。今回の訓練にも参加いたします」

「聞いてない!」

「そりゃ言ってないもの。でも見て、私は準備万端よ」

「うわっ! こんなところで脱がないでくださいッ」


 バサリと勢いよくデイドレスを脱ぎ始めた私にオスキャルが叱るように叫ぶが、そのまま全て脱ぎ捨てると実は今日起きた時からずっとドレスの下に着こんでいた騎士の訓練着が現れる。オスキャルを驚かせること含め計画していたことだった。


「さ、流石オスキャル殿の恋人ですな」

「どういう意味ですか!?」

 ひきつった笑みを浮かべながら騎士団長が言った言葉にすかさずオスキャルが噛みつくがそれも無視し、私は両手を腰に当てて胸を張る。


「さぁ! 訓練を始めましょう!」

 私のその言葉に完全に諦めた表情になったオスキャルが、苦しそうに「かしこまりました」とだけ呟いたのだった。


 いざ始めた訓練。

 私は当たり前のように――

「も、もうダメだわ……」

 ――ダウンしていた。


「大丈夫ですか、エヴァさ……、エヴァ」

「これが大丈夫に見える……?」

 ゼェゼェと荒い呼吸を繰り返し、なりふり構わず地面へとへたりこんでいる私へ、飲み物を手渡しながら心配そうにオスキャルが覗いてくる。


(訓練を舐めていたつもりはないんだけれど)

 私が混ざった訓練は、騎士や、騎士を目指している人たちの訓練ではなく高位貴族の令息を呼んで訓練という体験をする程度のもの。ソードマスターと公的に知り合うためにやってきた令息たちだ、普段は運動不足だろうし、せいぜい私と同程度、いやむしろ普段オスキャルと追いかけっこをしている私の方が体力があると思っていた。のに、この体たらくである。


 はぁ、とため息を吐きながら周りを見渡す。やはり高位貴族である彼らは最低限体を鍛えているのか、なんとほぼ全員が自身の足で立っており、私のようにへたり込んでいる人なんておらずガクリと項垂れる。だがこのままいつまでも地面にへたり込んでいては彼らの訓練の邪魔だろう。唯一少し離れたところにひとりだけヘロヘロになってしゃがんでいる令息がいたので、私は彼の方へノロノロとした足取りで向かった。


(せめて少しくらいミック公爵令息の情報聞き出さないと)

「大丈夫ですか?」

「え? 貴女はオスキャル卿の」

「はいっ、恋人ですね!」

 にこにこと返事をしながら彼にハンカチを渡すと、少し戸惑いながら黒髪の男性が受け取った。


(長い黒髪は毛先まで手入れされているのね)

 やはり高位貴族の令息たちが集まっているだけあって毛先まで美しい。その緑の瞳も顔立ちすらもどこか気品を感じる。普段幽霊姫としてあまり貴族たちとは接していなかった私は、ついそんなことを考えながらジッと見つめていると、まるで私たちの間を割り込むようにオスキャルがやってきた。


「ちょっと、令息たちを教えなくていいの?」

「今素振りさせてるんで。それにそこに倒れているご令息にも平等に教える必要がありますから」

 そう言ったオスキャルが、いまだ座り込んでいる令息へと手を差し伸べる。そして。

「立てますか? ミック公爵令息」

 そう口にした。


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