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24.婚約指輪

 エドアルドはアマティ公爵家を継いで、ジャンルカを新しい宰相にしなければいけない。今の宰相は仕事をしていないのに給料だけもらっていると評判が悪いし、現国王陛下であるジャンマリオとの折り合いもよくないのだ。

 現国王陛下は一刻も早くジャンルカが自分のそばで宰相として仕事を助けてくれることを願っているが、アマティ公爵家をエドアルドに託してからでないとジャンルカも宰相にはなれない。

 学園で領地経営の勉強はしてきたが実際に行うのと座学とは全く違う。

 学園卒業から半年間はジャンルカが領地経営を付きっ切りでエドアルドに教えてくれるが、その後はエドアルドは王都のジャンルカに助けを求めることはできるが、アマティ公爵とならなければいけない。


 まだ学園の学生であるリベリオとは三年間も離れなくてはいけなくなってしまう。

 夏休みや冬休みの長期休みはアマティ公爵領に帰ってきてくれるだろうが、エドアルドはリベリオがアマティ公爵家に来てから離れたことがなかったので不安ではあった。


(リベたんはお兄ちゃんの婚約者だけど、お兄ちゃんと離れちゃったら、違うひとに心奪われたりしないだろうか!? お兄ちゃんは美人でも華奢でもないし、かわいい年頃の令嬢と比べたら、やっぱりそっちの方がいいなんて言われたら、お兄ちゃん、ショックで寝込んじゃう! まぁ、寝込んでもリベたんは誰にも渡さないんだけど! リベたんとお兄ちゃんは結婚するんだもんね! よし、リベたんに変な虫が付かないように用意しておこう!)


 思い付いたのはリベリオに婚約指輪を付けさせることだった。それも、魔法のかかったものを。


(リベたんに下心ある子息令嬢が近付いたら、話しかけられないようにする魔法をかけてもらおう! それだけじゃ怪しまれるから、別の便利な魔法を! そうだ! お兄ちゃんと毎日お話ができるように通信の魔法とかどうかな? それならお兄ちゃんも寂しくないし、リベたんと毎日お話ができるし、一石二鳥じゃない!?)


 早速エドアルドはジャンルカと通して魔法具店に注文を入れておいた。

 男性の指に合うような角ばった少し太めの指輪に、エドアルドはリベリオの目の色の魔石を埋め込んでもらって、リベリオはエドアルドの目の色の魔石を埋め込んでもらう。

 毎日リベリオが魔力を注いでいる魔石は四つあって、二つはブローチに加工されていたが、残り二つはネックレスになっていたので、それを使ってもらうことにした。

 元々魔力の相性はいいので、リベリオの注ぎ込んだ魔力はエドアルドにも使えるようになっている。魔力を凝縮して小さな粒になるように加工された魔石が埋め込まれた指輪は、エドアルドのこともリベリオのことも守るだろう。


 注文に満足して出来上がりを待っていると、数日で返事があったので、エドアルドはリベリオの部屋に行った。

 指輪を取りに行って、リベリオの左手の薬指につけるのは、自分でありたいと思ったのだ。


 リベリオの部屋に行って、婚約指輪の話をすると、リベリオは嬉しそうにしていた。

 通信の魔法もかかっているのだが、リベリオに下心のある子息令嬢が近付いたら言葉が話せなくなる魔法がかかっているだなんて言えない。

 それだけでなく、リベリオの位置が分かるような魔法もかけているし、リベリオに呼ばれたらその場所に転移するような魔法もかけてある。逆にエドアルドに下心ある子息令嬢が近付いても同じようになるし、リベリオの指輪を使えばエドアルドの位置は分かるし、呼べばリベリオが転移してくるようにもしてあるのだが、その辺は指輪を作った職人に説明してもらうことにした。

 エドアルドではうまく説明できない気がしたのだ。


 指輪のことを話して、出かける約束をして部屋を出るときに、エドアルドはリベリオのふわふわの柔らかい蜂蜜色の前髪を上げて、額にキスをした。


(だーたんにもお休みのキスはしてるし、これくらい許されるよね? お兄ちゃん、清らかなリベたんが大人になるまで汚したりしないからね! リベたんが目を閉じると蜂蜜色の睫毛が長くてきらきらしていて、本当に天使みたい! リベたんは何歳までかわいいの!? 永遠にかわいいの!?)


 心の中で悶絶しつつ、これ以上一緒にいるとリベリオにもっと違うことまでしたくなりそうでエドアルドは必死に我慢して「おやすみ」を言って部屋に戻った。

 ベッドに倒れ込んで夏用の薄い掛け布団を抱き締めてごろごろと悶える。


(リベたんが成人したら、お兄ちゃんは……! でも、リベたんはお兄ちゃんのことどう思っているんだろう!? 結婚は承諾してくれているけど、結婚後にはもちろん、そういうことがあるわけで……! 病弱で天使のリベたんに魔法薬を飲ませて、妊娠、出産させるなんてできないから、お兄ちゃんが全部してあげたいけど、リベたんはお兄ちゃんのこと、そういう対象にできるの!? お兄ちゃん、この通り体は大きいし、怖いんだけど!)


 同性同士の結婚でも妊娠、出産は可能になる魔法薬がこの国では開発されている。エドアルドはもうすぐアマティ公爵になるのだから、後継者を望まれるのは当然だった。

 もちろん、リベリオが抵抗があってエドアルドとそういう関係になりたくないのであれば、ダリオの子どもを養子にもらうなど、方法がないわけではない。


(リベたんはお兄ちゃんのことを義兄として好きかもしれないけど、それ以上じゃないかもしれない! そうなったら、無理することはないからね! 子どもがいない夫夫なんてどれだけでもいるわけだし! ちょっとだけ、お兄ちゃん、寂しいけど! リベたんと愛し合いたいなぁって思うけど!)


 妄想が先走ってしまうエドアルドに、まだ三年も先のことで、リベリオとは全くその件を話し合っていないのだと突っ込みを入れるものは当然いない。

 エドアルドはベッドの上で転がって、なかなか寝付けなかった。


 翌朝はリベリオの部屋で、リベリオが五つ目の魔石に魔力を注ぎ込むのを見守って、アウローラとダリオも誘って薬草菜園の世話をして、朝食を取って、午前中はジャンルカに領地経営を習って、昼食を取ってから、エドアルドとリベリオは町に出かけることになっていた。

 昼食の後はお昼寝が必要なダリオは、眠そうにしているが、エドアルドとリベリオが着替えて出かける気配に、自分の部屋に行って眠ろうとしない。


「リベリオおにいさま、エドアルドおにいさま、どこにいくの? わたしもいく!」

「今日はダメだよ、ダリオ。今度一緒にお出かけしよう」

「わたしもいきたいー!」


 泣き出しそうになるダリオをリベリオが宥めているが聞かないので、エドアルドが抱き上げる。


「お土産を買ってくる」

「どんなおみやげ?」

「何がいい?」

「なにかな……。エドアルドおにいさまがいちばんかっこういいとおもったものにして!」


 難しいお土産を要求されてしまったが、エドアルドは頷いてダリオを部屋まで送って行って、乳母に渡した。


「格好いいお土産ってなんだろうね」

「考える」


 小さな弟の我が儘にくすくすと笑っているリベリオが天使のようで、エドアルドは心の中で拝みながら馬車に乗ったのだった。


 魔法具店は貴族御用達の店で、警護もしっかりとしている。

 魔法具店に入ってエドアルドが名前を告げると、個室に導かれた。


 個室で店員が出来上がった角ばった少し太めの指輪を持ってくる。

 エドアルドのものには蜂蜜色の魔石が埋め込まれていて、リベリオのものには紫がかった青い魔石が埋め込まれている。


 ビロードのケースに入ったそれを見せてもらって、エドアルドが手に取ると、店員が説明してくれる。


「この指輪にはいくつかの魔法をかけさせていただきました。魔石の力でお互いに呼び合う性質を持っており、どちらかが呼べばもう片方のいる場所に転移することができます。それに、想い合うお二人を邪魔するものが近寄れないようにもなっております。通信の魔法もかけてありますので、魔法を展開するとお互いの立体映像が現れて、通信することができます」


 説明を聞いているリベリオの手を取って、エドアルドは左手の薬指にその指輪をはめた。サイズはぴったりで、落とすこともない。


「エドアルドお義兄様の目の色の魔石だね。エドアルドお義兄様の方は、わたしの目の色の魔石だ」

「リベリオが魔力を込めた魔石を使った」

「あの……エドアルドお義兄様の指にわたしが付けてもいい?」

「つけてくれる?」

「はい」


 恥じらうように白い頬を薔薇色にして指輪をケースから取ったリベリオが、エドアルドの左手の薬指に指輪をはめてくれる。こちらもサイズはぴったりで、落とすようなことはない。


(いつもお兄ちゃんのことを感じててほしいなんていう独占欲を、リベたんは受け入れてくれたの!? リベたんの表情が嬉しそうに見えるんだけど、これは間違いじゃないよね!? リベたん、大好き! 愛してる! 結婚しよう! って、結婚するんだった!)


 婚約しているのについ脳内でプロポーズしてしまうエドアルドに気付かずに、リベリオは自分の左手の薬指にはめられた指輪を見詰めて、蜂蜜色の目を輝かせていた。


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