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22.国王陛下の褒賞

 アウローラの方ばかり見ていないで、自分に集中してほしい。

 そんなことを言いだしたリベリオに、エドアルドは内心で飛び上がって喜んでいた。


(リベたん、お兄ちゃんを独占したいの!? 安心して! アウたんのことは妹として心配なだけで、リベたんとは全く違うから! お兄ちゃんは、リベたんのことが大好きなんだからね!)


 自分の目の色の魔石のブローチをリベリオに付けてほしいと言ったときに、リベリオもエドアルドに自分の目の色の魔石のブローチを付けてほしいと言い返してくれて、お互いに自分の印を相手が付けているような気分になって、エドアルドは非常に満足していた。


 それなのに、リベリオはエドアルドが仕方なく自分と婚約しただなんて勘違いしている。


(違うよ! リベたん! お兄ちゃんはリベたんだから婚約したの! リベたんのことが好きなの! 仕方なくじゃないよ!)


 仕方なくではないと口に出したものの、エドアルドは不安になってしまう。


(リベたんの方こそ、仕方なくお兄ちゃんと婚約したんじゃないの!? 国王陛下から言われたら婚約しないわけにはいかないよね! それでもお兄ちゃん、リベたんのこと大事にするからね! リベたんに愛してもらえるように頑張る!)


「リベリオを大事に思っている」


 口に出せたのはそれだけだったが、エドアルドの心の中ではその何倍も熱弁していた。

 気を取り直したようにリベリオがエドアルドをダンスに誘ったが、ダンスの輪の中に入ったところでリベリオが慌てて謝ってくる。

 ダンスにはパート分けがあることに気付いたようだ。

 エドアルドも男性、リベリオも男性なので、どちらかが女性のパートを踊らなければダンスは成立しない。


(任せて、リベたん! こんなこともあろうかと、お兄ちゃん、女性パートも完璧です! 見て見て、お兄ちゃんの勇姿! リベたんに恥をかかせたりしないからね!)


 エドアルドが女性パートを請け負って踊っていると、周囲から感嘆のため息が漏れるのを感じる。その視線がリベリオに向いているような気がして、エドアルドは慌ててしまった。


(リベたんがきゃわいすぎるから、みんな見とれてる!? ダメだよ、リベたんはぼくのものなんだからね! リベたんの婚約者はぼく!)


 周囲を牽制しながら踊っていると、曲が終わる。

 ホールの端に移動して魔法で冷やされた葡萄ジュースの細いグラスを二つ給仕から受け取って、エドアルドはリベリオに一つ渡す。

 踊ったので血色のよくなったリベリオの薔薇色の頬や葡萄ジュースで赤く染まる唇が気になってそわそわしてしまうが、エドアルドはリベリオと話をしようと努めた。

 リベリオは女性パートを踊れなかったことを謝罪してくるが、そんなことはエドアルドは少しも気にしていなかった。


(リベたんと踊れるなら、女性パートでも、男性パートでも、どっちでもいいよ! 一緒に踊れるだけでとても嬉しいし、楽しかった! リベたん、踊ってくれてありがとう!)


 心の中でお礼を言っていると、リベリオは気にしているのか次は女性パートを覚えると言っている。


(そんなの気にしなくていいのに。リベたんは律儀だなぁ。それなら、交代で踊ればいいよね! リベたんが女性パートを踊った後には、お兄ちゃんが女性パートを踊って。だって夫夫ふうふは平等だもの! って、夫夫だなんて、気が早すぎるー!?)


 嬉しすぎて頭の中でパレードが始まってしまいそうなエドアルドはリベリオをもう一度ダンスに誘って、プロムを楽しく過ごしたのだった。


 卒業式とプロムが終わると、エドアルドはアマティ公爵領に戻る予定だったが、それは延期されることとなった。

 魔物の大暴走を起こそうとした男性たちの取り調べとエドアルドたちの供述、そして、魔物の大暴走を防いだエドアルドたちに対する国王陛下からの褒美が待っているのだ。


 男性たちを取り調べることで何かわかるかとエドアルドは期待していたが、それは叶わなかった。


「取り調べの前に男たちは全員、血を吐いて死んでしまった。口止めの魔法がかかっていたのだろう」


 エドアルドとリベリオとアウローラが警備兵の詰め所に事件のあらましを話しに行くのについてきたジャンルカは、苦々しい顔で教えてくれた。

 蜥蜴とかげの尻尾切りのようなことをされた男性たちを雇っていた相手は見つかっていない。

 ジャンルカも同席している場で、男性たちが言ったことを警備兵に伝えたのはリベリオだった。


「魔物の子どもを使って、男たちは群れをおびき寄せようとしていました。そのときに言っていたのを聞いたのです」


――アマティ公爵家に権力を握らせてはならない! ただでさえ、娘は王太子と婚約して、現当主は長男がアマティ公爵家を継いだら宰相となることが決まっているのに!


 リベリオの言葉にジャンルカが顔色を変える。

 思い当ることがあったのかもしれないが、ジャンルカはそれをエドアルドたちに話す気はなさそうだった。


 話し終えて、エドアルドたちが王都のタウンハウスに戻った翌日、国王陛下からの呼び出しがあった。

 エドアルドとリベリオとアウローラは揃ってジャンルカと共に国王陛下の御前に出た。

 室内には国王陛下と王妃殿下とアルマンドしかいなくて、エドアルドとリベリオとジャンルカは膝を突いて頭を下げ、アウローラは深くお辞儀をする。


「ここで話すことは、この場限りのこととして、誰も記録は取らせないし、わたしたちだけの秘密とする」

「ありがとうございます、兄上」

「エドアルドが先見の目を持っていたというのに、言われてみれば不治の病の治療法を見出したときから、先見の目があったからこそそれができたのだと納得した」


 深く頷く国王陛下に、エドアルドは胸中で挙動不審になってしまう。


(伯父上、そんなものありません! 先見の目なんて持ってません! 全部勘違いなんです!)


 必死に言い訳しようとしても、表情も口も上手く動かない。


「ぼくは何も……」

「今回の件も、先見の目で予言して防いでくれたのだな。エドアルド、おかげで民が一人も傷付くことなく魔物の大暴走も起きなかった。感謝している」

「いえ、違います」

「そんなに遠慮することはないのだ。先見の目を持っていると知られると、利用されるかもしれないと警戒しているのだろう。エドアルドはわたしの甥。決してそのようなことはしない。安心するがいい」


 全然通じていない。

 しかも、国王陛下はエドアルドに褒美を授けるなどと言って来る。


「エドアルドには王都を守ってくれた礼として褒美を授けねばならないな。先見の目のことは内密にするので、大々的に褒賞を与えられなくてすまない」

「いえ、いりません」

「謙虚なのはいいことだが、自分の能力を使ったのだ。その報酬は受け取っておいた方がいいぞ」


(ちがーう! ぼくには先見の目なんてないんです! 伯父上、信じてください! ぼくもなんであんなことになったのか全然分からないんですが、全部偶然なんです! ぼくは何も見えていないし、何も予言していない! それなのに、なぜか当たってしまっただけなんです!)


 どうしてこんなことが起こるのかエドアルドにも全く意味が分からない。

 むしろ当たってしまって怖いくらいなのに、国王陛下はそれを理解してくれない。


「エドアルド、やはり、不治の病の治療法を見つけたときのように、報酬は受け取らないのか……。それならば、エドアルドの褒章をアマティ公爵領の警備の費用に充てることにしよう」


 どうしても固辞するエドアルドに、国王陛下は褒賞はアマティ公爵領の警備に当てると言っている。アマティ公爵家が狙われたのは間違いないから、これから警備を厚くしなければと思っていたので、エドアルドはそれを断ることはできなかった。


 王都のアマティ公爵領のタウンハウスに戻る馬車の中で、リベリオがエドアルドに蜂蜜色の目を向ける。


「エドアルドお義兄様は本当に高潔な方だと改めて思ったよ。ものすごい能力があるのに、それに驕らず、いつも謙虚で、褒賞も遠慮して」

「リベリオ……」


(そんなんじゃないんだけどー!? お兄ちゃんは本当に先見の目なんて持ってない! どうやったらこれを信じてもらえるの!?)


 尊敬の眼差しで見つめられて、エドアルドはひたすら居心地の悪い思いをしていた。

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