目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

19.予言の変更

 エドアルドの先見の目の能力は国に知らせると利用しようとしてくる輩も現れる。

 国王陛下はエドアルドの父のジャンルカの兄であるし、信用できるとは思うのだが、ジャンルカはエドアルドに先見の目の能力があることを公表していなかった。

 先見の目は望んだことだけを見られるわけではないし、未来を知るということは非常に過酷な精神状態を伴うことがある。それを鑑みて、ジャンルカはエドアルドのことを伏せておいた。


 卒業式とプロムの日に魔物の大発生が起きる。

 その情報を得たジャンルカはアマティ公爵領からも兵士を呼び寄せて学園を守らせることにした。表面上は王太子と王弟の息子の卒業式で、プロムにはその婚約者も呼び寄せられるので、謀反などが起こらないように警備を厚くするという名目にしてある。

 卒業式には国王陛下と王妃殿下は出席しないが、ビアンカとジェレミアは出席することになっている。

 保護者代わりにジャンルカがビアンカとジェレミアと同席になることも決まっていた。


 王太子と王位継承者が集まる卒業式の場で何か起きてはいけない。

 それがジャンルカの主張で、それを国王陛下も納得してアマティ公爵家の兵士に警備させることを許可した。


 エドアルドの学年はずっとエドアルドが首席だったのだが、卒業の挨拶はアルマンドが引き受けたという。喋るのが苦手なエドアルドが遠慮したのだろう。

 壇上に立つ格好いいエドアルドを見たい気持ちはあったが、リベリオはアルマンドの挨拶を聞くことになった。


 卒業生の家族の席は身分ごとに分かれていて、ビアンカとジェレミアと同席するアマティ公爵家の席は広く、ジャンルカとレーナとアウローラとダリオとリベリオがゆっくりと座れるくらいだった。

 斜め前の椅子に座ったビアンカが、振り返って小声でリベリオに話しかけて来る。


「エドアルドお兄様にプロムに誘われたのでしょう? リベリオ様はエドアルドお兄様と仲睦まじく、お昼はこの三年間ずっと一緒でしたものね」


 最初のときにビアンカに誘われたが断ったことをビアンカはまだ覚えているようだ。

 この三年間、誰にも邪魔されず、秘密の裏庭の池のそばでリベリオとエドアルドは昼食を一緒に食べて過ごした。それももうなくなるのだと思うと寂しくなる。


「これからは一人でお昼を召し上がるのですか? 四年生からはわたくしたちと一緒にお昼を食べませんか?」

「わたしも学園に入学します。一緒にお昼を食べましょう」


 ビアンカとジェレミアから誘われて、リベリオは断れなくなってしまう。

 妙齢の男女が一緒に昼食を取っているのを見られるのはよくないのかもしれないが、リベリオはエドアルドと婚約しているし、ビアンカだけでなくジェレミアも一緒ならば悪くないのかもしれない。


「それでは、ご一緒させてもらいましょうか」


 返事をしたところで、アルマンドが壇上に上がってきた。

 凛々しく壇上に立つアルマンドは、父親の国王陛下がジャンルカと同じく長身なので、エドアルドと変わらないくらいの長身になっている。


「皆様、本日はわたしたちの卒業式にお越しくださってありがとうございます。今日、わたしたちはこの学び舎を卒業します。六年間学んだことを、この国のため、この世界のために、役立てていこうと思っています。わたしはいずれ、この国の国王となる身。そのときには、共に学んだ学友たちがわたしを支え、共に国を守ってくれることと信じています。学友と共に卒業できることを感謝して、卒業の挨拶にさせていただきたいと思います」


 学園の広い講堂にアルマンドの声が響いて、リベリオは手が痛くなるくらい拍手を送っていた。アウローラも身を乗り出して拍手している。ダリオはよく分からないながらに手を叩いていた。


 卒業式が終わるとプロムの準備に入る。

 卒業生も保護者や家族たちも一度自分たちの家に戻って、着替えて準備を整える。


「卒業式では何も起こりませんでしたね」

「それでは、プロムで起こるのか」

「プロムは夜になりますし、魔物たちが活発になる時間ですよね」

「学園のそばの林を今探索させている。魔物の大発生が起きたらすぐにでも分かるはずだ」


 王都のタウンハウスに戻ってからジャンルカと話していると、エドアルドが何か言いたそうにしている。


「違うんだ」

「エドアルドお義兄様、何かまた見えたの?」

「プロムじゃない」

「え!? もしかして、魔物の大発生は学園に向けたものではないってこと!?」


 それならば魔物の大発生はどこで起きるのだろう。

 考えればリベリオは一つの結論に辿り着く。


「王都が危ないってこと!?」

「そうなのか、エドアルド! 王都に魔物の大発生が……いや、魔物の大暴走が起きるというのか!? それならば、今すぐ国王陛下にお伝えせねば!」


 魔物の大発生は学園の近くで起きるようなものではなかった。もっと大規模で王都を襲って来るような大暴走になるのではないか。その考えを肯定するようにエドアルドが厳しい表情をしている気がする。


「お義父様、国王陛下にこのことを」

「あぁ、すぐに伝える。エドアルド、リベリオ、アウローラ、残念だがプロムは中止になるかもしれない」

「そんなことはどうでもいいのです。早くこのことをお伝えしないと!」


 慌ただしく出かける用意をするジャンルカに、エドアルドが何か言いたそうにしているが、リベリオはエドアルドの手を取って一緒にソファに腰かけた。


「王都が襲われて悲惨なことになる映像を見てしまったのではない? エドアルドお義兄様、大丈夫?」

「ぼくは大丈夫」

「王都を襲ってくると言っても、どこを狙って来るか分からないし」


 王都といえばそれなりの広さがある。そのどこに魔物が襲って来るか分からない。困ったリベリオがローテーブルの上に目をやれば、そこにダリオが勉強で使っている地図が広げてあった。

 その地図に目をやった瞬間、エドアルドの手が地図に触れる。


 そこは王都の北、深い森のある場所だった。


「エドアルドお義兄様、ここ!? お義父様、エドアルドお義兄様が、魔物が襲ってくる場所を教えてくれました。王都の北の森です!」


 素早くリベリオが地図を持ち上げて馬車を用意させたジャンルカの元に走って行くと、ジャンルカはそれを見て頷く。


「国王陛下に必ず伝えよう。エドアルド、教えてくれてありがとう」


 プロムは中止になりそうだったが、エドアルドのおかげで王都を襲ってくる魔物の大暴走は防げるだろう。安心していると、エドアルドがソファから立ち上がる。


「そんな……」

「エドアルドお義兄様、魔物の大暴走はそんなに激しいの!? 国王陛下の軍でも抑えきれないくらい?」

「アマティ公爵家が……」

「アマティ公爵家が狙われている!? この魔物の大暴走は意図的に起こされるもの!?」


 そのまま部屋まで行って乗馬服に着替えたエドアルドが腰に剣を下げて馬を用意させるのに、リベリオは取り縋ってエドアルドを止めていた。


「エドアルドお義兄様、一人で行くつもり!? そんなの危ないよ! 一人では行かせられない!」

「リベリオ、アマティ公爵家のため」

「この魔物の大暴走はアマティ公爵家を狙ったものなんだね? 作為的に魔物の大暴走を起こそうとしている奴らを止めに行くんだね。わたしも一緒に行く!」


 エドアルドとリベリオが玄関で揉めていると、自分の身長より長い剣を軽々と持ったアウローラが駆け寄ってくる。


「エドアルドお義兄様、リベリオお兄様、わたくしも参ります!」

「ダメだ、アウローラ」

「アウローラは待っていて。危険だから」

「エドアルドお義兄様はともかく、リベリオお兄様は戦う術を持ちません。わたくしが守らないと!」


 どうしても譲らないアウローラを説得できずにいるリベリオに、エドアルドも困っている様子だ。


「魔物の暴走はまだ起きていないんだよね。今なら止められるかもしれないんだよね?」

「ぼくが」

「エドアルドお義兄様だけを行かせられない!」

「エドアルドお義兄様とリベリオお兄様だけを行かせられないわ!」


 説得するよりも連れて行ってしまった方がいいのではないだろうか。

 実際にリベリオは剣術は全く才能がないし、魔法も癒しの能力しかない。エドアルドは様々な属性の魔法を使いこなし、剣術も非常に優れている。アウローラは小さいけれど剣術の先生に免許皆伝を言い渡されるほど剣術に秀でている。


 この三人ならばなんとかなるのではないだろうか。

 エドアルドを一人で行かせるわけにはいかない。

 リベリオは使用人に自分の馬とアウローラの馬も用意させていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?