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16.リベリオとのデート

(お兄ちゃんです。今、リベたんとのお出かけに行く馬車に乗っています)


 誰にでもなく胸中で実況中継をしてしまうくらいに、エドアルドは浮かれていた。

 リベリオとの二人きりのお出かけである。

 アマティ公爵領がジャンルカのおかげで落ち着いていて、治安もいいのでこういうことができるのだが、護衛は何人も付けられた。高位貴族の嗜みとして護衛や使用人は空気としか思っていないのでエドアルドとリベリオの二人きりのお出かけだと思うことができた。


 それにしても、朝は肝を冷やしたものだ。

 いつもならドアをノックするとすぐに返事があるのだが、リベリオの返事がなかったのだ。

 一緒にベッドで眠った日、リベリオは魔力酔いで苦しんでいた。眠っている間に魔力酔いになったり、魔力が暴走して苦しんでいるのではないか。

 思わず部屋の中に駆け込むと、リベリオは健やかに寝息を立てていた。


(リベたんの寝顔! きゃわいい! 顔色も悪くないし、大丈夫なのかな? お兄ちゃんだよー? リベたんー?)


 リベリオが目を開けたときには安堵したのだが、一応体調を聞いて、倒れないか見守っていると、リベリオは顔を洗って、髪の毛を整えていたのだが、どうしてもぴょこっと跳ねる場所があってそのあまりのかわいさに、エドアルドはのけ反りそうになった。


(リベたんは寝癖までかわいい!? このぴょこんとした髪! もう芸術的じゃない!? お兄ちゃんの天使はつま先から髪の毛の先までかわいいんだね!)


 感動してしまったが、リベリオは気にして一生懸命寝癖を直そうと頑張っているので、かわいくて(そのままでも芸術的! 百点満点!)なんて言えないで、エドアルドはリベリオからブラシを受け取って魔法を使ってリベリオの寝癖を直したのだった。


 その後リベリオが目の前でパジャマを脱ごうとしていたからエドアルドは慌ててしまった。


(いくら婚約者になったからって、リベたんの着替えを見るだなんていけない! 昨日の採寸のときも視界に入らないように必死に目を反らしていたっていうのに! お兄ちゃん、リベたんに対して変な気持ちになりたくない! 清らかなリベたんを汚すなんてできない!)


 急いで部屋から出たエドアルドはドアの前でリベリオを待ちながら、早鐘のように打つ心臓を押さえていた。

 着替えが終わるとリベリオから声がかけられて、部屋で魔力の受け渡しをする。リベリオと並んでソファに座って、手を握ってリベリオの魔力を受け入れる。


 これに関してはエドアルドも考えがあったのだが、今は上手に口に出せる気がしないので心の中にしまっておく。


 薬草菜園の世話も終えて朝食も取れば、ジャンルカとレーナがエドアルドに今日の行程を確認して、今日の資金の入った財布を渡してきた。学生なので稼ぎのないエドアルドは両親からお金をもらうしかないのだが、学園を卒業して自分で稼げるようになったら自分のお金でリベリオに色んなことをしてやりたいと夢想していた。


 町に出る馬車の中でもいい感じに会話が弾み、楽しい雰囲気でエドアルドとリベリオは貴族が衣装を買う店まで行くことができた。

 店の前で馬車から降りて、護衛の二人は店の中にまでついてくるが、残りは店の周りを警護している。

 店の中にはリベリオくらいの少年からエドアルドくらいの大人の体格までの服が揃っていた。


「エドアルドお義兄様、このシャツ、襟に刺繍がしてあって素敵だよ」


 早速店の中でシャツを見つけたリベリオがエドアルドに合わせて来る。エドアルドは成人男性よりも身長があって体格もいいのだが、きちんとそういう男性の服も扱っているようで、リベリオが選んでくれたシャツはエドアルドにも着られそうだった。


「リベリオはこれ」


 シャツを差し出してくれるリベリオにエドアルドは取り換えるように明るい茶色のスラックスを渡した。それに合わせて、白いシャツと明るい茶色のジャケットも合わせる。


「エドアルドお義兄様、似合うかな?」

「これも」


 ループタイをそれに合わせると、リベリオのかわいさにエドアルドは鼻血を吹きそうになった。


(ものすごく似合ってるよ、リベたん! なんてキュート! ラブリー! お兄ちゃんは鼻血が出ちゃいそう! こんなところで鼻血を出したら店のひとも迷惑だし、リベたんにドン引きされちゃう! 我慢だ! 頑張れ、ぼくの鼻の粘膜!)


 そっと鼻を押さえる仕草がリベリオにはクールで格好よく映っているだなんてことはエドアルドは気付くはずもない。


「エドアルドお義兄様にも、このジャケットとスラックス!」


 リベリオが選んでくれたのはブルーグレイのジャケットとスラックスだった。それぞれ選んでもらったものを手に試着室に入る。

 着てみてからお互いに見せあうと、リベリオが蜂蜜色の目を輝かせてエドアルドを見詰めている。


「エドアルドお義兄様、とても似合ってるよ。薄い水色のシャツの襟の刺繍も格好いいし……どうしよう、エドアルドお義兄様がこんなにも格好いい……」


 口から漏れる素直な感想にリベリオは気付いていないのだろうか。うっとりとしているリベリオに微笑みかけると、僅かにしか口角が上がらなかったが、リベリオはその笑みに気付いたようで頬を薔薇色に染めていた。


 それぞれに選び合って数着の服を買って、エドアルドとリベリオは馬車に荷物を積み込んで、次の場所に行った。

 次の場所はアマティ公爵領でも有名な菓子店だった。

 出発前にアウローラとダリオも行きたいと駄々をこねていた。アウローラはジャンルカに説得されて渋々納得していたが、ダリオは泣き喚いてレーナにあやされていた。


(ごめんね、アウたん、だーたん! 今日はお兄ちゃんはリベたんと二人きりで出かけたかったんだ! お土産を買って帰るから許してね!)


 この菓子店の有名なマシュマロバーや、チョコレートの中にマシュマロを入れた菓子や焼き菓子を買って、エドアルドは最後の目的地に行った。

 そこは魔法具のお店だった。


「エドアルドお義兄様、魔法具を買うの?」

「リベリオに必要」

「わたしに必要なもの!? エドアルドお義兄様、また先見の目の能力で未来を見たの!?」


 相変わらず誤解されているが、エドアルドはしばらく前から考えていたことがあったのだ。


(魔力が溢れるなら、その魔力を魔石ませきに蓄えておけばよくない? リベたんの魔力はお兄ちゃんにも使えるし、リベたん自身が魔力を使いすぎたときに魔石に魔力を貯めておけばいつでも補給ができるよね?)


 魔石に魔力を注ぎ込むのは、エドアルドが受け取るのと違って、少し難しくはなるのだが、九歳だったリベリオにはできなくても、十二歳になって学園で魔法学を習い始めた今ならば不可能ではないだろう。


(リベたんとの朝の触れ合いがなくなっちゃうのはお兄ちゃんとっても寂しいけど、リベたんの魔力がいつか役に立つ日がくるかもしれないでしょう? もちろん、これは先見の目の能力なんかじゃないよ! お兄ちゃんは、先見の目とか持ってないからね!)


 心の中で説明して、弁解しても、リベリオには届かないことは分かっている。どうにか誤解を解きたいのだがリベリオは完全に勘違いしていてどうしても誤解が解けないでいた。


 ジャンルカが注文してくれていた魔石を受け取ると、リベリオが蜂蜜色の目を不思議そうに丸くしている。


「リベリオの魔力をこれに注ぐ」

「エドアルドお義兄様が受け取ってくれるんじゃなくなるの?」

「注ぐ手伝いはする」


(朝の触れ合いがなくなるんだから、お手伝いくらいはさせてよね! お兄ちゃん、リベたんを導いてあげるから! お兄ちゃんに任せて!)


 リベリオに伝えると驚いているようだが、納得してくれた。


「エドアルドお義兄様がそうした方がいいって言うなら」


 先見の目の能力でエドアルドが何か見たと勘違いしているリベリオは、表情を引き締めているが、エドアルドに先見の目などないし、何か見えるはずもなかった。

 それをどう言ってもリベリオには伝わらないのだろうと、エドアルドは若干諦めの境地に入っていた。


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