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15.デートの約束

 エドアルドと婚約をした。

 国王陛下の前で認められて、エドアルドと婚約式を挙げて、アルマンドとアウローラも婚約した。

 元ブレロ子爵家のリベリオに対して風当たりの強い貴族がいたのも確かだが、そういう貴族も国王陛下は黙らせてリベリオを守ってくれた。

 エドアルドにキスされた指先を握り締め、リベリオは幸福に浸っていた。


 冬休みに入っていたので婚約式の翌日にはジャンルカ一家はアマティ公爵領に戻った。

 久しぶりに戻ってきた部屋のクローゼットの中の衣服が、少し小さくなったような気がしてリベリオは自分の成長を感じる。エドアルドほど目覚ましくは伸びていないが、リベリオの背もそれなりに伸びているし、体も大きくなっている。


 王都のタウンハウスから持ち帰ってきた服があったのでそれを着るとして、リベリオは夕食のときにジャンルカとレーナに相談した。


「わたしの服が小さくなっている気がするのです」

「リベリオが成長したのだね」

「新しい服を準備させましょうね。夕食後に採寸してもらってください」


 新しい服を準備してもらえると安心していると、エドアルドも口を開く。


「ぼくも」

「エドアルドはわたしに似て大きいからな」

「エドアルドも採寸してもらって、服を準備してもらいましょうね」


 夕食後は採寸の時間になって、リベリオとエドアルドは同じ部屋に入って衣装係のメイドから採寸を受ける。リベリオの服もエドアルドの服も全て仕立てるのではなくて、サイズの合う仕上がったものを買って準備してもらうことも少なくはなかった。仕立てるのはお茶会や夜会に出席するためのフロックコートやスーツやタキシードだけだった。


 下着姿になって採寸してもらっているのが妙に恥ずかしくてエドアルドの方を見られないのだが、エドアルドは気にしていない様子でエドアルド付きの衣装係のメイドに採寸してもらっている。

 見上げるような長身で体付きも引き締まっているエドアルドは大人よりも体格がよくて格好いいが、リベリオはいかにも子どもの範疇を抜けない体付きでますます恥ずかしくなってしまう。


 採寸が終わって服を着ると、エドアルドがリベリオの方を見た。青い目は凪いだ色をしている。


「リベリオ、明日町に出ないか?」

「エドアルドお義兄様と町に行くの?」

「リベリオの衣装を選びたい」


 衣装係に全部任せずにエドアルドはリベリオの衣装を選んでくれると言っている。


「わたしもエドアルドお義兄様の衣装を選びたいよ」

「父上と母上に許可を取ろう」


 エドアルドと町に出かけることができる。

 それを考えるとリベリオは嬉しくて声が弾んでいたに違いない。

 リベリオが風呂に入っている間にエドアルドはジャンルカとレーナに許可を取ったようだった。ほこほこと湯気を上げて風呂から出て部屋に戻ろうとすると、部屋の前で引き留められる。


「父上と母上に許可をもらった」

「本当? 明日は二人でお出かけだね」


 無邪気に喜んで、「エドアルドお義兄様、お風呂、次どうぞ」と言ってから部屋に戻ってリベリオはものすごいことに気付いてしまった。


「もしかして、これはデートなのでは!?」


 婚約者同士がお互いの服を選んで町を歩く。それはいわゆるデートと言うものではないのだろうか。

 エドアルドとリベリオは公爵家の息子なので護衛はついてくるだろうが、護衛や使用人は空気と同じ扱いなので、実質二人きりだ。

 二人きりで町に出る。


「か、かっこいい恰好しなきゃ……でも、いい服があるだろうか」


 せっかくのデートならば格好付けたい。リベリオはクローゼットを探したが、どれもサイズアウトした服ばかりで、王都のタウンハウスから持ってきた服も普段着が主だ。

 身分を隠して狙われないようにするために地味な格好でいなければいけないというのは分かっているが、その中でも少しでも格好いい服でいたい。リベリオのなけなしのプライドがそう言っている。

 部屋中に服を広げて悩むリベリオは、いつもの就寝時間を過ぎていることに気付いていなかった。


 服を選んで片付けて眠ったら、すぐに朝は来てしまったようだ。

 目を開けたらエドアルドの顔が視界に飛び込んできた。


「ドアをノックしても返事がないから。リベリオが倒れているんじゃないかと」


 ドアをノックしても起きる気配のないリベリオに異変を感じたのか、エドアルドは部屋の中に慌てて入ってきてくれたようなのだ。寝起きで髪もくしゃくしゃ、顔も洗っていない姿を見られてリベリオは焦って起き上がる。


「寝坊しちゃっただけだよ。体は心配ないよ。とても元気」


 体に異変があるとか言ったらせっかくのデートがなくなってしまうかもしれない。ふわふわの癖毛なので寝ぐせで頭が爆発していないことを願いつつ、リベリオは洗面所に行って、顔を洗って髪を整えるのだが、なかなか跳ねた髪が戻ってくれない。

 ブラシで何度も髪を梳いていると、エドアルドの手がリベリオの手からブラシを受け取って、優しく髪を梳く。水の魔法で霧吹きをして、火の魔法で乾かしてくれると、寝癖はきれいに直った。


「エドアルドお義兄様、ありがとう。着替えるから、ちょっと待ってね」


 着替えようとするとエドアルドは部屋から出て行こうとする。採寸で下着姿も見ているし、普段から男同士なのでそんなにお互いに気にしていなかったが、今日は違うようでリベリオもエドアルドに胸がどきどきしてしまう。

 紳士だからエドアルドは部屋から出てくれたのだろうが、リベリオはエドアルドのことが好きだからどうしても意識してしまう。


「エドアルドお義兄様は紳士だから。わたしのことなんてなんとも思ってない」


 自分に言い聞かせると虚しさでせっかくのデート日和が台無しになる気がするが、勘違いしてはいけないとリベリオは胸の中で繰り返していた。


 アウローラとダリオと薬草菜園の世話をして、朝食を食べ終わると、ジャンルカとレーナがエドアルドに今日のことを伝えていた。


「護衛は付けるが、警戒はしておくように。これは今日の分の資金だ。エドアルドが管理しなさい」

「分かりました、父上」

「エドアルド、リベリオのことよろしくお願いします」


 二人にお金の入った財布を渡されているエドアルドの足元でアウローラとダリオが目を丸くしている。


「エドアルドお義兄様とリベリオお兄様、お出かけするの!?」

「にぃに、だーたんも! だーたんも!」

「アウローラとダリオは留守番だよ」

「お母様とお父様と待っていましょうね」


 お出かけの気配に行きたがるアウローラとダリオをジャンルカとレーナが止めてくれる。

 納得できないダリオはひっくり返って手足をバタバタさせて泣いてしまったが、レーナが抱き上げて宥めている。アウローラも納得している顔ではないが、ジャンルカに「今度家族で出かけよう」と言われてなんとか落ち着いたようだ。


 用意された馬車に乗って出かけるリベリオとエドアルド。

 二人きりの馬車など、学園に行くので慣れているのに、落ち着かない気分になってくる。

 朝、魔力はエドアルドに渡していたので魔力酔いにもならないし、魔力暴走も起こさないはずなのだが、リベリオは緊張感で魔力が高まってしまうのではないかと心配していた。


 馬車の周りには馬に乗った護衛の兵士が取り巻いているし、見るひとが見ればこれがアマティ公爵家の息子二人だということは分かるのだろう。

 そのために行き先もジャンルカとレーナに伝えていたし、それ以外の場所には行かないようにエドアルドもリベリオも言い聞かされていた。


「リベリオには何色が似合うかな」

「エドアルドお義兄様には青系が似合うと思うんだ」

「ぼくの我が儘に付き合ってくれてありがとう」

「そんな! わたしはエドアルドお義兄様と出かけられて嬉しいよ」


 珍しく滑らかに話すエドアルドにリベリオの緊張も解けていく。

 これからのデートがリベリオは楽しみでならなかった。

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