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12.リベリオの魔力酔い

 リベリオの誕生日にジャンルカとレーナを安心させたくて、どうにか紡げた言葉でリベリオが薔薇色に頬を染めて照れているのがかわいすぎて、エドアルドは表情筋は相変わらず仕事をしないが、口だけは動いてよかったと思ったのだった。


 魔力臓が成長してきて、リベリオはエドアルドに魔力を渡さなくても魔力核からの魔力の供給に耐えられるかもしれないと医者が言ったときにエドアルドの胸に生まれたのは寂しさだった。

 これからは毎朝リベリオの部屋に行って魔力を受け渡さなくてもいいかもしれない。そうなるとリベリオとの触れ合いが一つ減ってしまう。


 義理とはいえ兄弟なのだし、婚約者同士にもなるので部屋を訪ねるくらいは気にしなくていいのかもしれないが、口実がないとエドアルドはなかなかリベリオの部屋に入ることは難しかった。


(お兄ちゃん、リベたんとの触れ合いがなくなっちゃうのが悲しい。リベたんのお部屋に「やっほー! お兄ちゃんだよー!」って遊びに行ければいいんだけど、ぼくにそんなことはできない! どうしてフレンドリーな気持ちに添って動いてくれないの、表情筋! リベたんは怖がらなくなったけど、上手く喋れないせいで、まだ先見の目を持ってるって誤解されてるし!)


 心の中で絶叫しつつ医者の話を聞いていたが、最後に医者は付け加えるように言った。


「御子息同士の魔力の相性が奇跡的にもとてもいいので、お互いに魔力を与え、受け取り、を繰り返していると、魔力核と魔力臓を安定させる訓練になります。上の御子息は魔力臓の容量が非常に大きいので、下の御子息の魔力が少々入りすぎても困らないはずです」


 リベリオと手を取り合って魔力を行き来させる。

 それは新しい触れ合いになるのではないだろうか。


「魔力核と魔力臓を安定させるだけでなく、成長を促すことにも繋がりますね」


 医者の言葉にエドアルドは心の中で喜びの舞を舞った。


(リベたんと毎朝の行事はやめなくていい! リベたんの小さなお手手に触れて、魔力を注ぎ込んで、リベたんの魔力を受け取って……あぁ、そんなの、ちょっとエッチじゃない!? あ、そんなこと考えちゃうお兄ちゃんの頭が変態って!? ごめんなさい! ごめんなさい!)


 脳内で土下座しつつも、魔力を与え、受け取るのは二人きりで行うにせよ、少し淫靡な気がしてエドアルドは興奮して自分の目が青から紫に変わっていることに気付いていなかった。


 誕生日のお茶会の後には、エドアルドはリベリオの部屋に行った。

 その日はリベリオから魔力を受け取っていないので、眠っている間にリベリオの魔力が溢れて暴走したり、魔力酔いの状態になって苦しんだりしないか心配だったのだ。

 そのことを告げて、ソファで寝させてもらってリベリオを見守ると告げると、リベリオは絶対に譲らなかった。


 エドアルドの部屋に場所を移して、エドアルドがベッドで、リベリオがソファで寝るというのに納得できないエドアルドにリベリオが大胆なことを言ってきた。


「そ、それなら、一緒に寝ればいいよね! わたしとエドアルドお義兄様は婚約するのだし、男同士だし、構わないはずだよね!」


(えー!? 最高にラブリーでキュートなリベたんと一緒に寝るの!? どうするの、何か間違いがあったら! リベたんはまだ十三歳で結婚前の清らかな体なんだよ! でも、リベたんの婚約者はお兄ちゃんで、リベたんとお兄ちゃんは男同士だから……いやいやいや、ダメ! ダメだよ! リベたん! 自分を大事にして!)


 欲望に心が傾きそうになったが、必死に立て直すエドアルドだがリベリオはもう決めてしまったようだ。

 さっさとベッドに上がって、エドアルドを招いてくる。


(あ、ダメ! リベたんに誘惑されて乗らないなんて無理! 安心してね、リベたん! お兄ちゃんは鋼鉄の理性でリベたんに絶対変なことはしないからね! ちょっと寝顔を見たり、リベたんの髪を触ったり、匂いを嗅いだり……あー!? それは変態っぽい!? ごめんなさい! ごめんなさい!)


 やはり心の中で土下座してしまうエドアルドだが、誘惑には勝てずにベッドに上がった。エドアルドのベッドはとても大きいのでリベリオとエドアルドが一緒に寝ても問題はない。

 ベッドの端に寄って大きな体を小さくしていると、リベリオもベッドの逆の端に寄って体を小さくしている。

 お互いに背中を向け合って眠りについたのだが、エドアルドは全然眠れなかった。

 リベリオもしばらくもぞもぞとしていたが、そのうちに健やかな寝息が聞こえてくる。

 リベリオが眠ったのを確認して、そっと寝返りを打ってリベリオの方を見ると、ふわふわの蜂蜜色の髪が頬にかかって、小さく色づいた唇を僅かに開けてぐっすりと眠っているようだった。


 手を伸ばしてリベリオに触れようとした瞬間、リベリオの様子が変わった。


 腹部を庇うように体を丸めて、苦しんでいる様子だ。


「リベたん? リベたん?」


 もう十三歳なのだから呼んではいけないと分かっていても、いつも心の中で読んでいるリベリオの愛称が口を突いて出て来る。

 薄く目を開けたリベリオの顔色が真っ青なのに気付いて、エドアルドはリベリオの体を抱き起した。


「リベリオ、ぼくに魔力を渡して!」

「エドアルド、おにい、さま……」


 魔力酔いの状態に陥っているのかもしれない。吐き気や頭痛、腹痛などに耐えているリベリオの表情は酷く苦しそうだ。

 魔力をどうにかして受け取ってあげなければいけない。


 エドアルドはリベリオの体を片手で抱いて、もう片方の手で両手を握った。


「リベリオ!」

「おにいさま……」


 小さな手から溢れ出た魔力がエドアルドの中に注ぎ込まれる。加減ができなかったのだろう、大量の魔力が注ぎ込まれてきたが、エドアルドは落ち着いてもらいすぎた魔力をリベリオに返す。


 一連の動作が終わったときには、リベリオは再び健やかな寝息を立てて眠っていた。


 日中は平気だったが、一日の終わりになってリベリオの魔力は溢れて来た。まだリベリオの魔力核と魔力臓のバランスは完全に整っていないのだろう。

 一緒に寝るようなことになってしまったが、リベリオから夜も目を離さなくてよかったとエドアルドは心から安堵していた。


 安心したせいか、エドアルドはリベリオを抱き締めたまま眠ってしまったようだった。

 目を覚まして、リベリオの顔が間近にあってエドアルドは心臓が口から飛び出るかと思った。


(リベたん!? どうしてここに!? これは夢!? 違った! 昨日リベたんを守るために一緒に寝たんだった! お兄ちゃん、リベたんを守れたよね? リベたんに不埒なことはしていないよね? それにしてもリベたんの寝顔が目を開けたらドアップであるだなんて、心臓に悪い! むしろ、幸せすぎて心臓がもたない! あー! きらきらの長い睫毛! 薔薇色の頬、リベたんラブリー! キュート!)


 リベリオに対する称賛の言葉はどれだけでも出てきそうだったが、エドアルドはそこまでにして名残惜しくベッドから立ち上がって身支度を整える。

 着替えてベッドの様子を見に来たところでリベリオも目を覚ましたようだった。


「エドアルドお義兄様の予言通り、夜中に魔力が溢れたね。エドアルドお義兄様が助けてくれなければどうなっていたか」

「リベリオ、気にしないで」

「あの……わたし、寝相悪くなかった? エドアルドお義兄様を蹴ったりしなかった?」

「平気だ」


(リベたんなら例え蹴られようとご褒美でしかないです! リベたんの蹴りなんてかわいいもの! 気にしなくていいんだよ!)


 エドアルドは少し寝ぐせの付いたリベリオのふわふわの髪を撫でる。ふわふわの蜂蜜色の髪は柔らかくて手触りがとてもいい。エドアルドの髪は真っ黒で真っすぐで太く硬いのだが、リベリオの髪はまさに天使のようだった。


「あ! おはよう、エドアルドお義兄様! 挨拶が遅れてごめんなさい。わたし、自分の部屋で着替えて来るね」


 頬を染めながら目を細めて撫でる手を受け入れてくれていたリベリオだが、急に立ち上がって自分の部屋に戻ろうとする。そんなリベリオをエドアルドは止めた。


「今日は魔力を受け取っておきたい」

「そ、そうだね。まだわたしには早かったみたい」


 魔力を渡さずに過ごすのはリベリオにはまだ早かったというのはエドアルドも同感だった。

 ソファに座ってリベリオの手を握って、リベリオから魔力を受け渡されるエドアルド。リベリオから魔力を受け入れるのはいつも温かく心地よい。それはリベリオの魔力が癒しに特化しているからかもしれない。


「着替えたころに、声を掛ける」

「うん! アウローラとダリオにも声を掛けて、薬草菜園の世話だね!」


 元気よく部屋に戻って行くリベリオの姿を見送って、エドアルドはソファに座ったままで深いため息をついた。


(今日は犯罪者にならずに済んだ。これが続いたら、お兄ちゃん、リベたんに手を出してしまうんじゃないか……。どうしよう、リベたんに嫌われたら!)


 エドアルドの心の中では嵐が吹き荒れていた。


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