三年間一緒に暮らしているので分かっている。
エドアルドは優しいだけではなく誠実で真面目な人物だ。
幸せにすると言ってくれたのだから、今は義弟としか思えなくても愛情を育んで幸せになれるだろう希望がリベリオにも感じられた。
無理をさせているのではないかとか、我慢させているのではないかとか不安は尽きないが、エドアルドが先見の目で未来を見て、そうするのが正しいと思って決めたことなのだ。それならばリベリオはエドアルドに従うだけだった。
自分にとって都合が良すぎるようにも感じられるが、エドアルドの優しさがないとリベリオは生きていけない。
冬休みの婚約式を前にしてリベリオは医者の診察を受けていた。
魔力臓と魔力核のバランスが取れるようになってきているか、リベリオは定期的に検診を受けているのだ。
「魔力臓が発達してきて、魔力核の供給する魔力を保てるようになっているかもしれません。一度上の御子息と魔力をやり取りしない日を作ってみて、様子を見てみた方がいいでしょう。それでまだ魔力核の魔力の方が多ければ、上の御子息に魔力を渡して過ごすのをもう少し続けた方がいいかもしれません」
エドアルドとの魔力のやり取りがなくなってしまう。
そのことはリベリオにとっては寂しくもあったが、実験的に魔力のやり取りをしない日はできる限りエドアルドが一番近くにいて、何かあればすぐに魔力を受け渡せるようにしてくれるというので、安心もしていた。
「魔力核から供給される魔力はその日の体調によっても違います。一日成功したからといって、ずっと成功するとは限りません。実験的に魔力を受け渡さない日は、御子息同士ができるだけ近くにいて、何か起きればすぐに魔力を受け渡しできるようにしていてください」
医者の説明にリベリオは頷く。
リベリオの診察のときには心配してくれてジャンルカもレーナもエドアルドも同席していてくれたし、家族なのだからとアウローラとダリオにも何も隠し事はしないという意味で同席してもらっている。
「にぃに、いちゃい?」
「痛くないよ、ダリオ」
「いこいこ」
医者にかかっているのでリベリオが病気だということは理解しているのだが、自分が医者にかかるのはこけたときや風邪を引いたときなので、ダリオはそれと同じようにリベリオが苦しいのかと聞いてきて、リベリオの座っているソファの上に立って小さな手を伸ばしてリベリオを撫でてくれる。
小さな弟に心配されるのはかわいくて心地いいのでリベリオは「ありがとう、ダリオ」と言って撫でる手を受け止めていた。
婚約式まで日がないが、リベリオの誕生日も近付いてきている。
リベリオの誕生日にはお茶会が開かれる予定だったが、婚約式の準備で忙しいので今年は家族だけで祝うことになりそうだった。
誕生日のお茶会の招待状は文面は印刷でいいのだが、宛名と署名は全部自分で手書きしなければいけないのがマナーだと言われている。婚約式前にそんな時間はないのでリベリオはお茶会がなくなったことに関してはほっとしていた。
リベリオの誕生日も婚約式の準備で追われていた。
衣装の最終的なチェックが入って、出来上がった衣装を着てみて、作っている間に体型が変わったところや伸びた身長の分を調整してもらう。成長期なのでリベリオは身長がすごく伸びた気がしていたが、調整するまでもない範囲だったので少しがっかりしてしまった。
エドアルドはただでさえ高い背がまた伸びたようだった。
見上げるようなエドアルドの長身にリベリオは見惚れてしまう。
リベリオの身長はエドアルドの肩までもないのだ。ジャンルカはさらに大きいのでエドアルドは将来ジャンルカのように大きくなるだろうということは予測できていた。
それにしても白いタキシードを着たエドアルドの格好いいこと。
前髪を上げて真っ白なタキシードを身に纏うエドアルドの体は逞しく、見ているだけで胸がときめく。
こんな格好いいひとがリベリオと婚約するのだ。
「エドアルドお義兄様……」
「リベリオ、体調は?」
「平気だよ」
誕生日は少しずれたが週末の休みの日に祝うことにしていたので、エドアルドとリベリオがずっと一緒にいられるということで、魔力を受け渡ししない実験日にもなっていた。
衣装の最終チェックが終わって食堂に集まると、お茶の準備が整っていた。
「リベリオ、十三歳のお誕生日おめでとう」
「不治の病に侵されていたリベリオがこの年まで生きられるなんて、奇跡のようですわ」
ケーキとお茶が揃うと、ジャンルカとレーナがしみじみと言う。
「リベリオお兄様おめでとうございます。もうすぐ婚約式ですし、二重におめでたいですね」
「にぃに、おめめと」
アウローラもダリオも祝ってくれていると、エドアルドが真剣な眼差しでリベリオの手を取り、ジャンルカとレーナに向き直った。
「リベリオの誕生日に僕は誓います。リベリオを必ず幸せにすると」
気が早いエドアルドの言葉にリベリオは耳が熱くなって頬も火照ってくる気がする。繋いだエドアルドの手から温かいエドアルドの体温が伝わってくる。
「婚約の誓いのようだね。エドアルドがリベリオとのことを真剣に考えているのはよく分かったよ」
「エドアルド、リベリオをお願いしますね」
婚約式のような雰囲気になってしまった誕生日のお茶の時間に、リベリオは照れながらもエドアルドの覚悟を嬉しく聞いた。
その日、リベリオはエドアルドに魔力を受け渡さなくても過ごせたのだが、夜にエドアルドがリベリオの部屋を訪ねて来た。
「寝ている間に何か起きたら」
「寝ている間にわたしの魔力が溢れるということ?」
一日のほとんどの時間は安全に過ごせたが、まだ警戒は必要だということなのだろう。先見の目を持つエドアルドが言うのだからその通りなのかもしれない。
「エドアルドお義兄様、夜通しわたしを見張っておくのは大変だよ?」
「リベリオはベッドで。ぼくはソファで」
ソファで寝るとエドアルドは言うのだが、どう考えてもエドアルドにソファは狭すぎる。体の大きなエドアルドは縦にも横にもソファからはみ出してしまう。
「わたしのベッドで寝ても……狭いよね」
リベリオのベッドも普通サイズでエドアルドが寝るには狭すぎる。
困っていると、エドアルドは「構わなくていい」と言ってソファに横になる。明らかに体がはみ出ているし、足もはみ出ている。
「エドアルドお義兄様のお部屋に行ってもいい? エドアルドお義兄様のベッドは広いでしょう?」
「リベリオは?」
「わたしがエドアルドお義兄様の部屋のソファで寝るよ」
そう提案したリベリオだったがエドアルドは納得しない。
「リベリオはベッドに」
「エドアルドお義兄様がベッドで、わたしがソファ! エドアルドお義兄様は体の大きさを考えて!」
強く主張してエドアルドの手を引いてエドアルドの部屋に行って、エドアルドをベッドに寝かせようとするのだが、体格差があるので押しても引いても、エドアルドはびくともしない。
「エドアルドお義兄様、ベッドで寝てー!」
「リベリオがベッドで」
「そ、それなら、一緒に寝ればいいよね! わたしとエドアルドお義兄様は婚約するのだし、男同士だし、構わないはずだよね!」
折衷案としてリベリオが必死に主張すると、エドアルドはリベリオの顔をじっと見つめて無表情のまま何も言わない。
「もう決めた。エドアルドお義兄様のベッドで一緒に寝ます。はい、決定!」
エドアルドの手を引いてリベリオがベッドに上がると、遅れてエドアルドも躊躇いがちにベッドに上がってくる。
エドアルドの体格に合わせたベッドは広く、リベリオとエドアルドが寝ても問題なさそうだった。
ベッドの端に縮こまるようにして横になるエドアルドと、同じく小さくなってベッドの端に寄るリベリオ。ベッドはエドアルドの香りがして、リベリオは大胆なことを言ってしまったが、自分が眠れるか自信がなかった。