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11.ジャンルカとレーナの結婚式

 リベリオとアウローラとレーナがアマティ公爵家に移り住んでから半月、ついにレーナとジャンルカの結婚式の日になった。

 王弟の結婚式なので盛大に開かれるべきではあったのだが、お互いに再婚同士で子どももいるということで、アマティ公爵家の大広間で親しい身内だけで行われることになっていた。

 とはいえ、ジャンルカは王弟である。身内といえば国王陛下や王太子殿下、王子殿下たちも入ってくる。


 今回の結婚式に国王陛下は出席しないことになっていたが、代理として王太子殿下が出席すると聞いてリベリオは緊張していた。


 毎日エドアルドに魔力を注いでもらって、エドアルドの作る薬草の煎じ薬を飲んで、リベリオの体は劇的に回復していた。倒れることはほとんどなくなったし、日中もベッドで過ごさなくてよくなった。

 早朝と夕方にはエドアルドと一緒に薬草菜園の世話をして、午前中はエドアルドが剣の修練をするのを見ながら、少しだけ模擬剣を振るわせてもらったり、アウローラと庭を散歩したりする。長いベッドでの生活で体力が落ちているので、少しずつ体力を戻していかなければいけないと分かっているのだが、薬草菜園の世話をするときに、アウローラは元気にゾウの如雨露で水やりをしているのに、リベリオだけが体力がなくて座り込んだりしてしまうのには参っていた。

 水やりの最中に座り込んでしまうリベリオのためにエドアルドは薬草菜園のある温室にベンチを用意して、そこに保冷保温の魔法がかけられた水筒も用意して、リベリオが疲れてしまう前に休ませてくれるようになった。


「リベリオ、そろそろ」

「もう少しできます」

「座って」


 先見の目で見られているのだろう。リベリオが疲れてくるとエドアルドはすぐに見抜いてリベリオをベンチに座らせて冷たい紅茶を水筒から注いで飲ませてくれる。水やりで頑張りすぎてびしょ濡れになったアウローラも、一緒にベンチに座らせて、エドアルドはふわふわの巻き毛をハンカチで拭いてくれながら冷たい紅茶を飲ませてくれる。

 体力をつけたいという思いと、エドアルドに優しくされるのが嬉しいという思いが混ざり合って、複雑な気分になりながらリベリオは冷たい紅茶で一息ついていた。


 午後は家庭教師に勉強を教えてもらう。動けなかった時期はベッドの上で起き上がれるときには本ばかり読んでいたので、リベリオの学力はそれなりにあるようだ。アマティ家の家庭教師の教え方がいいのかもしれないが、褒められることが多く、リベリオは毎日の勉強の時間が楽しくてたまらなかった。

 家庭教師と勉強をする勉強室にはエドアルドもいて、別の家庭教師から授業を受けている。高度な計算や政治の話、歴史の話をしているエドアルドの姿に、リベリオは尊敬の念を込めてエドアルドをちらちらと見ながら勉強していた。


「わたしもエドアルドお義兄様のようになれますか?」

「リベリオ様はとても聡明です。学園に通う年になれば、エドアルド様の学力に追い付くかもしれません」


 エドアルドの方がずっと頭がよくて、もう学園の四年生くらいの勉強をしていると聞いているのに、家庭教師はリベリオの願いを否定せずに受け止めてくれる。


「そうなりたいです。もっと教えてください」


 リベリオも勉強に意欲を見せて家庭教師に積極的に習っていた。


 ジャンルカとレーナの結婚式の日、リベリオは膝丈のスラックスのタキシード姿で、ソックスガーターをつけてソックスをはいて出席した。アウローラはお姫様のようなふんわりとした胸で切り替えがあるドレスだった。エドアルドはタキシード姿で、身長が高いので大人の男性のような雰囲気を醸し出していた。


「ジャンルカ叔父様、おめでとうございます。レーナ夫人もこれからよろしくお願いします」


 挨拶をしてきたのは王太子のアルマンドだった。

 アルマンドはエドアルドと同じ年の十二歳。エドアルドと一緒にこの秋学園に入学するはずだった。


「エドアルド、久しぶりだね。エドアルドにこんなかわいい弟妹ができるだなんて、本当におめでとう。新しい弟妹も生まれてくるかもしれないしね」


 親し気にエドアルドに話しかけるアルマンドは、従兄弟同士で同じ年なのでエドアルドと仲がいいようだった。


「アルマンド、ありがとう」

「君は相変わらずだなぁ。氷の公子様」

「そんな……」


 アルマンドに対しても冷たい凍り付いた表情しか見せないエドアルドだが、アルマンドはあまり気にしていない様子だった。それどころか、「氷の公子様」というエドアルドの呼び名をからかうように口にしている。


「仲がいいのですね……」


 なんとなく間に入れない雰囲気を感じ取ってしまったリベリオだが、アウローラが蜂蜜色の目を輝かせてアルマンドを見詰めている。

 黒髪に深い緑の目のアルマンドは、エドアルドとどこか似ていて、身長も高い。


「エドアルドおにいたまとにてる! あーたん、アウローラ!」

「初めまして、アウローラ。これからは義理の従兄弟になるアルマンドだよ。よろしくね」

「アルマンドたま……おうじたまみたい」

「王子様なんだよ。ぼくはこの国の国王の息子で王太子だからね」

「おーたいち、なぁに?」

「次の国王になる王子のことを言うんだよ」


 空気を読まずに突撃していくアウローラに、アルマンドは優しく説明してくれている。この状況で自分が名乗らないのも失礼だと思ってリベリオが前に出ると、エドアルドがリベリオの背中に手を添えてくれた。


「ぼくの義弟、リベリオ」

「リベリオ・ブレロです。妹はアウローラ・ブレロです。お初にお目にかかります、王太子殿下」

「義理の従兄弟になるから、リベリオって呼ばせてもらうね。ぼくのことは、アルマンドって呼んで」

「よろしくお願いします、アルマンド殿下」


 気後れしてしまっていたリベリオのためにエドアルドは口数が少ないのにアルマンドにリベリオを紹介してくれたし、アルマンドは気さくにリベリオに話しかけてくれる。


「リベリオはジャンルカ叔父様の養子になるんだから、これからはリベリオ・アマティって名乗らないといけないね」

「そうでした。失礼しました」

「そんなに敬語を使って形式ばることはないよ。ぼくたちは義理の従兄弟なんだからね」

「アルマンドたま、おうじたま。にぃに、えほんでよんだ、おうじたまよ!」

「アウローラ、アルマンド殿下って呼ばないといけないよ。すみません、アウローラは絵本で王子様とお姫様の出て来る話を読んで、王子様に憧れているのです」

「王子に憧れているの? かわいいね。お姫様、ぼくと一曲踊ってくれますか?」

「にぃに、おうじたまがあーたんとおどってくれるって!」


 芝居がかった仕草で膝を突いてアウローラと目線を合わせて胸に手を当て、アウローラをダンスに誘ってくれるアルマンドに、アウローラは大興奮している。


「アルマンド、結婚式が終わってから」

「そうだった。ごめんね、お姫様。結婚式が終わったら一緒に踊ろうね」

「にぃに! あーたん、おしめたま! おしめたまとおうじたまよ!」

「アルマンド殿下、本当にありがとうございます」


 アウローラをお姫様扱いして喜ばせてくれるアルマンドもとても優しいのだろう。リベリオはアウローラの嬉しそうな顔に、アルマンドに心底感謝していた。


「わたし、ジャンルカ・アマティはレーナ・ブレロと結婚し、健やかなるときも病めるときも、共に生き、生涯愛することを誓う。

「わたくし、レーナ・ブレロはジャンルカ・アマティと結婚し、健やかなるときも病めるときも、共に生き、生涯愛することを誓います」


 誓いの言葉を述べるジャンルカとレーナ。清楚な白いドレスを身に着けたレーナはとても美しかった。ジャンルカは堂々としてとても格好いい。

 交換する指輪を持って行くのはアウローラの仕事と決まっていたので、ドレスの裾を踏まないようによたよたと歩いて近寄ったアウローラが美しいサテンの布で縫われたリングピローを差し出すと、ジャンルカとレーナがその上から指輪を受け取る。

 お互いに指輪を付け合って、ジャンルカはレーナと寄り添い、お祝いの言葉を述べに来る客たちにお礼を言っていた。


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