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8.先見の目(なんて持ってない)

 リベリオを助けるために魔力の制御を自主練して一夜で習得してしまったエドアルドに、リベリオはいつそれができるようになったか聞いてきた。

 それに対して、エドアルドは「それは必然」と答えた。


(だって、リベたんが苦しんでるんだよ? 当然、ぼくも努力するでしょ! 魔力の相性がよかったのはぼくにとってものすごく嬉しい誤算だったけど、これもきっと神様が導いてくれたおかげだよ! これは必然! リベたんのような天使を救うためにぼくは生まれて来たんだ!)


 その言葉が何をどう誤解されたのか、リベリオはエドアルドには未来を予見する力があるなどと言ってきて、ジャンルカもそれに対して「先見の目」などという魔力が非常に高い王族でも稀にしか生まれない、未来を予言する目をエドアルドが持っているなどと言い始めた。


(えー!? ないない! そんなのない! ぼくはリベたんのために、夜なべして練習しただけだし、リベたんと魔力の相性がよかったのは偶然だよ。リベたんもお父様もなんか誤解してない!?)


 それに対して、全然違うと言いたかったのだが、リベリオとジャンルカはすっかりと盛り上がってしまって、エドアルドは「先見の目」を持っていることにされてしまった。


(違うのにー!? どうしてー!?)


 心の中で悲鳴を上げつつも、エドアルドは上手に否定することができない。その上、「先見の目」を持っているがゆえにエドアルドがこれまでつらい目に遭ってきたのではないかとリベリオは心配してくれる。


(いやいやいや、つらかったのはリベたんでしょ? 三歳から魔力臓が壊れていただなんて、大変なことだよ? ぼくはつらいことなんて何もない。ずっと幸せだったし、お父様がレーナ様と再婚して、かわいいリベたんとアウたんという天使の弟妹までできて最高にハッピーなんですけど? もうハッピーすぎて踊り出しそうなんですけど!)


 心の中ではダンスの準備が始まっているのに、エドアルドの気持ちは全く通じなくて、ジャンルカもリベリオもレーナもすっかりと勘違いしてしまっていた。今更この勘違いをどう正せばいいのかエドアルドにはよく分からない。


 その上、ジャンルカはこれまでのエドアルドのつらさを労うため、また、リベリオをこれから支えていくエドアルドのために、エドアルドの望みを何でも叶えてくれるという。

 それならばエドアルドはしたいことがあった。


(お父様とレーナ様とリベたんとアウたんと旅行に行きたい! 新婚旅行に家族全員で行きましょう! リベたんもアウたんも旅行なんて行ったことないだろうな。ぼくも王都のタウンハウスとアマティ公爵領を行き来する以外に旅行は行ったことがない。みんなで新しい体験をする! これぞ家族って感じ!)


 最初はジャンルカとレーナだけで新婚旅行だと思っていたジャンルカも、エドアルドが「一緒に」と言えば意味が通じて、家族で旅行に行こうという話になる。

 医者に聞けば、リベリオはこれまでの生活で体力が落ちているから配慮が必要だが、旅行をすること自体は止められなかったので、みんなでの新婚旅行が実現しそうだった。


(お父様とレーナ様が結婚式を挙げるまでにもう少し時間があるし、それまでにリベたんには庭を散歩して体力をつけてもらおうかな。お兄ちゃん、リベたんをエスコートしちゃいます! お兄ちゃんに任せて! リベたんが途中で疲れたら抱っこしてあげるし、リベたんに合わせてゆっくり歩いてあげるからね!)


 リベリオとの散歩のことを考えるとデレデレしすぎて鼻の下が伸びているような気分になっているエドアルドだったが、周囲から見ると全く表情が変わっていないのはいつものことだった。


 医者が帰ってから、レーナは屋敷の女主人としての仕事に戻り、ジャンルカは結婚前に終わらせておきたい仕事があったようで、忙しく部屋を出て行く。

 残されたのはエドアルドとリベリオとアウローラだった。リベリオの近くにいたくてすぐそばから離れないエドアルドに、リベリオが問いかける。


「エドアルドお義兄様、わたしたちのことまで考えてくださって。この感謝をどう表せばいいのでしょう?」

「元気でいて」

「そんな、エドアルドお義兄様は欲がなさすぎます」


 ただリベリオが元気でいてくれれば、エドアルドはこの上なく幸福なのだが、それではリベリオは納得できないようだった。何か自分にできることをしたい様子である。

 そういえば、昨日はほぼ徹夜で魔力の制御の練習をしていたから、エドアルドは薬草菜園の世話をできていない。

 どうしてもリベリオが気になって何かしたいのであれば、無理のない範囲で薬草菜園を手伝ってもらうというのはどうだろう。リベリオは感謝を表せて満足するだろうし、エドアルドはリベリオと過ごす時間が長くなって幸せだし、薬草菜園で薬草に触れていたらリベリオの魔力臓を治す薬草を探す手掛かりも見つかるかもしれない。

 いいこと尽くしの考えにエドアルドはリベリオに提案した。


「薬草菜園を手伝って」

「エドアルドお義兄様が亡くなったお母様から引き継いだ薬草菜園を、わたしが手伝っていいのですか?」

「してほしい」


(疲れたら休んでいいし、体に負担になることは絶対にさせないから! 大丈夫! お兄ちゃんが守ってあげる! 薬草菜園を手伝うことでリベたんに体力が付いたらいいなって思っただけなんだ。嫌だったらいいんだよ。リベたんが決めて?)


 その気持ちを込めてリベリオを見詰めれば、リベリオは蜂蜜色の甘そうな瞳に決意を込めて顔を上げた。


「やらせていただきます。エドアルドお義兄様、なんでも言いつけてください」

「にぃに、エドアルドたまのおてちゅだい?」

「そうだよ、アウローラ、エドアルドお義兄様のお手伝いができるなんて誇らしいことだ」

「あーたんもちたい! あーたん、できう!」


 アウローラも参加したがっていることに、エドアルドは心の中で天を仰ぐ。


(アウたん、まだ三歳なのに、大好きなにぃにのために薬草菜園を手伝うなんて! なんて尊い! この兄妹愛の尊さ! あぁ、眩しくてぼくは二人を見ていられない! いや、今こそ凝視すべき時! リベたんとアウたんの尊さをこの心に刻むんだ!)


 二人が手伝うと言ってくれたことが嬉しくて、エドアルドは両手を組んで祈りのポーズを取ってしまった。


「エドアルドお義兄様……」


 それがリベリオにとっては亡き母に対する悼むような姿に見えていることにエドアルドが気付くはずもない。


「エドアルドたま、あーたん、がんばう!」

「わたしも頑張ります。どうぞよろしくお願いします」


 リベリオとアウローラと薬草菜園の世話ができるならば、これからもっと生活に張りが出て楽しくなりそうだとエドアルドは神に感謝していた。


 翌朝からリベリオとアウローラはエドアルドに声を掛けられて、朝食前に薬草菜園の世話に加わった。

 最初はリベリオもアウローラも見学していて構わなかったのだが、やる気満々でやってきた二人に、エドアルドは桶と柄杓を差し出して水やりを頼むことにした。


(リベたんとアウたんに桶と柄杓かぁ。似合わないよね。二人になら何が似合うだろう……? そうだ! 如雨露じょうろだ! ゾウさんの如雨露とかいいんじゃないかな? 桶も柄杓も大人サイズだから重いし大きいんだよね。よし、今度外出できることになったら、お兄ちゃん、リベたんとアウたんにゾウさん如雨露を買っちゃうぞー!)


 リベリオは九歳でゾウさんの如雨露を喜ぶかは分からないが、似合うことには間違いがないので、エドアルドは独断でゾウさん如雨露の購入を心に決めていた。

 エドアルドが薬草菜園の雑草を抜いて、害虫を駆除した。


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