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第42話:全て揃いましたわ!

 【鉄の甲羅】の裏手の雑木林は、前回ラース先生が撃った【嵐ガ丘ワザリング・ハイツ】で焼野原になってしまいましたので、まだその爪痕が色濃く残っております。

 今回の性能テストでもまた森林破壊をしてしまうのかと思うと、若干心苦しいですわね……。


「ラース先生、何となく察しはついてるかもしんねーが、この【創造主ノ万年筆ロマンスィエー・フュラー】には、ラース先生が創造したキャラを一時的に具現化させる効果がある」

「……!」


 マア!?

 それはまた、トンデモネーチート能力ですわね!?

 なるほど、九尾の狐は人間をそっくりコピーしたドッペルゲンガーを創ってましたが、ラース先生は小説家ですから、ご自身が創造したキャラを創り出すのですわね!

 それこそ完全無欠の最強キャラとかを具現化させたら、無敵なのでは……?

 ……いや、多分そこまでリアリティのないキャラは、プロ作家のラース先生だと逆に創造できないでしょうし、仮に創造できたとしても、ラース先生の魔力が足りなくて具現化は難しい気がしますわ。

 流石にそこまで万能な武器ではないのかもしれません。

 とはいえ工夫次第で、無限の可能性があるのは事実――。

 これはまた一つ、ラース先生の騎士としてのレベルが上がったようですわね!


「そ、それは……、夢のような槍ですね」

「カカカ。ある意味日々俺たち読者に夢を与えてくれてる、ラース先生に相応しい槍だろう?」

「はは、恐縮です」


 またホルガーさんが、顔に似合わず詩的なことを言っておりますわ!?

 一作家として、ジェラシーですわぁ~~~~。


「さあラース先生、【創造主ノ万年筆ロマンスィエー・フュラー】の刃で地面に自作のキャラの名前を書きながら、召喚の呪文を詠唱するんだ」

「は、はい!」


 ふおおお!!

 いったいラース先生は、どのキャラを召喚するのでしょうか……!


「――【夜明モルゲンデメルング】」


 まずは【天使ノ衣エンゲル・クライドゥング】で、魔力をブーストさせるラース先生。

 そして【創造主ノ万年筆ロマンスィエー・フュラー】の刃を、地面に突きます。

 ドキドキ……!


「鋼の肉体 不屈の魂

 王国の剣にして薔薇の護り手

 金色こんじきの鎧は不退転の証

 真実の愛を貫く剛剣の英雄

 ――我が下に来たれ【フリード・ベッケラート】」


「「「――!!」」」


 ラース先生が召喚の呪文を詠唱しながら、地面に【フリード・ベッケラート】という名前を書きました。

 するとその名前が見る見るうちに人の形になり、それは大剣を携え、全身を金色こんじきの鎧で包んだ、ダンディな男性の姿になったのですわ――。

 これは、わたくしがラース先生に弟子入りするキッカケになった、『光への逃走』のヒーロー役のフリード――!

 濡れ衣を着せられたヒロインの無実をたった一人だけ信じ、最後まで守り抜いた男の中の男――!!

 騎士団長を務めているだけあって、完全無欠とまではいかないものの、作中では最強と名高い人物ですわ。

 終盤の一人で数百体の魔獣を薙ぎ払うシーンは、何度読んでも胸が高鳴ります!

 フリードを召喚できたなら、ラース先生の戦力は一気に数倍に膨れ上がったと言っても過言ではないでしょう――。

 これは、最早わたくしでも簡単には勝てないくらいのレベルまできましたわね……。

 ウフフフフ、実に面白いですわ――!


「よぉ神様。まさかこんな形で、あんたに会えるとはな」

「か、神様!?」


 フリードがラース先生を神様と呼びます。

 うん、確かにフリードからしたら、ラース先生はまさしく創造主神様ですわよね。


「はは、そう言われるのは何だか照れくさいな。僕よりも君のほうが、設定上は年上だし」

「ハッハッハ! 確かにな。――だが、あんたのお陰で俺はクリスと出逢えたんだ。心から感謝してるぜ」

「――!」


 クリスというのは、『光への逃走』のヒロイン、クリスティーネの愛称ですわ!

 生真面目なクリスティーネと、どんな時でも冗談を交えて飄々としているフリードのデコボコカップルの遣り取りは、ドチャクソてぇてぇんですわぁ~~~~。

 ……でも、そうですわよね。

 ラース先生が創造したからこそ、クリスティーネとフリードは結ばれたのですわ。

 フリードにとっては、ラース先生はいくら感謝してもし足りない存在でしょう。


「だから俺は、あんたのためなら何でもするぜ。――手始めに、俺の必殺技を披露してやるよ」

「え!?」


 オオッ!

 ということは――!

 ――フリードは大剣を前方に構え、魔力を込めます。


「このつるぎは大地を断ち

 このつるぎが命を絶つ

 このつるぎは心を起たせ

 このつるぎが勝者を立たせる

 ――【勝利ノ剣ジーク・シュヴァート】」


「「「――!!」」」


 フリードの持つ大剣が巨大化していき、それは天を衝かんばかりになりました。

 キターーー!!!!

 これぞフリードの必殺技、【勝利ノ剣ジーク・シュヴァート】!

 城をも一刀両断する巨大剣で一撃で敵を屠る、超絶パワープレイ!!

 先ほどわたくしが言った数百体の魔獣を薙ぎ払うシーンは、これによって行われたのですわッ!


「ハアアアアアアアアアアアア!!!!」

「「「っ!?!?」」」


 フリードが【勝利ノ剣ジーク・シュヴァート】を振り下ろすと、ズガアアアンという轟音を上げながら、目の前の大地が真っ二つに割れてしまいました。

 うわぁ、これは最早、森林破壊なんてレベルじゃないですわね……。


「よし、こんなもんだろ。どうだい神様? あんたが創造した俺は、超ツエーだろ?」

「――ああ、君は僕の誇りだよ、フリード」


 ラース先生は心の底から誇らしげな顔をしてらっしゃいます。

 後方神様顔ですわぁ~~~~。


「うぐっ!?」

「「「――!」」」

「ラ、ラース先生!?」


 その時でした。

 ラース先生が胸を押さえながら、苦しみ出しました。


「おっとスマン。いきなり張り切りすぎちまったようだな。神様の魔力が切れちまったか」


 フリードの身体が透けていきます。

 流石に【勝利ノ剣ジーク・シュヴァート】は魔力消費量が多すぎて、今のラース先生では使えるのは一回が限度のようですわね。

 これは、使いどころは考えませんとね……。


「またいざって時は俺のことを呼んでくれ。いつでも力になるからよ」

「……ああ、その時は……頼むよ、フリード」

「ハハ、またな」


 フリードは光の粒になって消えました――。

 こうして二次元のキャラに実際に会えるなんて、わたくしのような原作ファンからしたら、まさに夢のような武器ですわ!


「うんうん、やっぱ俺は天才だな」


 ホルガーさんが腕を組みながら、深く頷きます。

 悔しいですが、これもそう認めざるを得ませんわぁ~~~~。


「ホルガーさん、凄いにゃあ! ボクもいつか、ホルガーさんみたいになりたいにゃあ!」

「ニャッポリート」

「お? そうか? カカカ。坊主もなかなか、見所があるじゃねーか」

「うがああああ!!! 脳が……!! 脳が破壊されるううう……!!!」


 またしてもレベッカさんの脳が破壊されておりますわぁ~~~~???


 ――とはいえこれで遂に、ラース先生専用装備が全て揃いましたわ!

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