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第41話:無言になってしまいましたわぁ~~~~。

「カカカ! マジでドッペルフォックスを倒しちまったのかよ! 冗談半分で言ったのに、やっぱトンデモネーな、【武神令嬢ヴァルキュリア】は」


 冗談半分であんな危険な魔獣の素材を要求しないでくださいまし!?

 危うく死にかけましたわよ!

 まあ、ドラゴンの巣に入らずんばドラゴンの卵を得ずという諺もございます。

 貴重な素材を得ようとするなら、相応のリスクは付き物ではございますが。


「よし、早速今からこれでラース先生の槍を作ってやるからな! そろそろ来る頃だと思ってたから、槍の柄は作っておいたんだ」


 ホルガーさんはついさっきまで絡みついていた槍の柄を、テーブルの上に置きました。

 またホルガーさんの体温が移ったものを、ラース先生が身につけるのですか???

 思わずラース先生のお顔をそっと窺うと……。


「……うん、まあ、これも小説のネタ作りだと思えば」


 やはりラース先生はプロですわぁ~~~~。


「はうっ!?」


 今の遣り取りを見ていたレベッカさんが、ご自分の【魔女ノ髪ヘクセ・ハール】とホルガーさんを見比べながら、狼狽えておりますわ。

 よもやこの【魔女ノ髪ヘクセ・ハール】も、作る前はホルガーさんに抱きしめられていたのかもしれないと思うと、今になって恐ろしくなったのかもしれませんわね……。

 お気持ちはよくわかりますわ、レベッカさん……。

 あ、そうだ、これは確認しておきませんとね。


「ホルガーさん、今回も料金は、余った素材で賄うということでよろしいでしょうか?」

「え? いやいやいや、それは流石にもらいすぎだろ! 槍の素材は爪が1本ありゃ十分だ。こりゃ16本もあるじゃねーか。こんな貴重な素材、市場に出したら1本1000万サクルはくだらねーぞ!」


 九尾の狐の爪は、1本の脚に4つで、計16本ありましたからね。

 せっかくですから、全部分捕ってきたのですわ。


「まあまあ、ホルガーさんにはいつもお世話になっておりますし、そのお礼も兼ねてですわ。ラース先生もそれでよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです。どうか受け取ってください、ホルガーさん」

「……へへっ、そこまで言うなら、ありがたく使わせてもらうぜ」


 うんうん、これでホルガーさんも少しは、お店をリフォームする気になってくれたらいいのですが。

 まあ、ホルガーさんのことですから、全部武具の素材として使ってしまうのでしょうけどね。


「よっしゃ! 1時間もあれば完成するだろうから、1時間経ったらまた来てくれ」

「あっ、ボク、武器を作ってるところ、見てみたいにゃ!」


 おや、やはりボニャルくんは、そういうのがお好きなんですのね?


「おっ、坊主、興味あるのか? へへっ、じゃあ今日は特別に見せてやるよ」

「やったにゃあ!」


 よもやこれは、いずれボニャルくんがホルガーさんに弟子入りするフラグ!?

 ……もしも将来ボニャルくんがホルガーさんみたいな体型になってしまったらと想像すると、それはそれで複雑ですわね。


「わ、私もボニャルくんの保護者として、ここに残りますッ!」


 レベッカさんもわたくしと同様の懸念を抱いたのか、ボニャルくんの両肩に手を置きながら、ホルガーさんと対峙します。

 ここでまさかの三角関係が勃発しましたわぁ~~~~???


「では、せっかくですからわたくしも見学させていただきますわ。ラース先生はどうされますか?」

「はい、僕も見学させていただきます。小説のネタになるかもしれませんし」


 ラース先生の頭の中は、小説のことだけでパンパンですわぁ~~~~。

 プロの鑑ですわぁ~~~~。


「カカカ。こんなに大人数に見られてると、少しだけ恥ずかしいな」


 あんな変態芸術行為を晒しておいて、今更では?(わたくしは訝しんだ)


「よし、じゃあ見とけよ見とけよ~」


 恥ずかしがったり見とけと言ったり、どっちなのですか?(わたくしは訝しんだ)


「――フゥ」

「「「――!」」」


 その時でした。

 ホルガーさんが九尾の狐の爪の1つを手に取り魔力を流すと、爪が輝き出しました。

 オオッ!


「フンッ!」


 そして金床の上に爪を置くと、愛用の槌で爪を叩いたのですわ。


「わあ! 形がどんどん変わっていくにゃ!」


 わたくしの魔力障壁を貫通するほど強靭で凶刃だった爪は、まるで粘度みたいに柔らかくなっております。

 ホルガーさんの魔力には、一時的に素材を柔らかくする効果があるのですわ。

 まさに鍛冶職に特化した魔力と言えるでしょう。

 わたくしたちは暫し、ホルガーさんの神業とも言える槌捌きに見蕩れておりました――。




「よし、後はこれを柄に付ければ完成だ」

「ニャッポリート」


 そしてちょうど1時間ほど経った頃。

 九尾の狐の爪は、すっかり槍の刃に形成されておりました。


「ふにゃぁ、凄いにゃあ」


 ホルガーさんの熟練の業に、ボニャルくんはすっかり骨抜きですわ。


「ぐぬぬぬぬ……」


 そんなボニャルくんを見て、またレベッカさんが彼氏を寝取られたみたいな顔をしておりますわ。

 こう言っては何ですが、レベッカさんは寝取られ属性が似合いますわぁ~~~~。


「さて、と」


 ホルガーさんは槍の刃を柄に取り付け、それをテーブルの上に寝かせました。

 そして槌を握って天高く掲げ、魔力を込めます。

 いよいよ例の仕上げですわね!


「鉄の神が背中を押し

 竈の神が道を示し

 槌の神が形を与え

 人の神が名を授ける

 ――顕現せよ【創造主ノ万年筆ロマンスィエー・フュラー】」


「「「――!!」」」


 ホルガーさんが槌で槍を叩くと、刃が万年筆のペン先のような形に変わりました。

 オオッ!

 これは、ラース先生が小説家だから、こういうデザインにしたのですわね!?

 実にニクい演出ですわぁ!


「にゃあああああ!!! カッコイイにゃあああああああ!!!!」


 ボニャルくんも大興奮ですわ!


「ぐぎぎぎぎぎぎぎ……!!」


 そしてレベッカさんは、今にもホルガーさんに【魔女ノ一撃ヘクセンシュス】を撃ち込みかねないような顔をしておりますわ。

 騎士団の人間が殺人事件とか、洒落にならないから勘弁してくださいまし~~~~。


「さあこれで完成だ。名付けて【創造主ノ万年筆ロマンスィエー・フュラー】。ラース先生、アンタの槍だ。受け取ってくれ」

「は、はい……! ありがとうございます……!! 大事に使わせていただきます……!!」


 ラース先生は奥歯をグッと噛みしめ、若干瞳を潤ませながら、ホルガーさんから渡された【創造主ノ万年筆ロマンスィエー・フュラー】を手に取ったのですわ。

 ドチャクソエモいシーンですわぁ~~~~。


「よっしゃ! 例によって次は性能テストだ。みんな裏に行くぞ」

「はい!」

「はいだにゃ!」

「はいですわ!」

「ニャッポリート」

「…………」


 遂にレベッカさんが、無言になってしまいましたわぁ~~~~。

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