目次
ブックマーク
応援する
9
コメント
シェア
通報

第39話:手に入れましたわ!

「いえ、ヴィクトリア隊長、、仕事が残っています」

「え?」


 ラース先生??

 仕事、とは??


「ハハ、バレてたか。いやあ、流石著名な作家先生の目は誤魔化せなかったみたいですね」

「「「――!!」」」


 パチパチと乾いた拍手をしながら、フリーライターのフリッツさんが瓦礫の陰から現れました。

 そういえばこの方をすっかり忘れてましたわ!

 この方だけは王都から来た人間ですし、肉霊にくれいの証もついていませんでしたから、人間ということですわよね?


「さっき九尾の狐が言っていた、というのは、あなたのことですね?」

「「「――!?」」」


 なっ!?

 そ、そういえば、そんなことを言ってましたわね!


「この村の人間は全員肉霊にくれいだったわけですから、というあなたが、無事なはずはありません。――それこそ、でもない限りは」

「うんうん、実に慧眼です」


 フリッツさんは口角を吊り上げながら、わざとらしく頷きます。

 こ、この人は……!


「いやあ、実に残念ですよ。せっかくの命令で、遠路はるばる九尾の狐のスカウトに来たっていうのに。これで無駄足になっちゃいました」


 あのお方、ですって……!?


「斯くなる上は、あなた方の首を土産にすることにしましょう!」

「「「――!!」」」


 フリッツさんは懐から、血のように赤黒い液体が入った小瓶を取り出し、その中身を一思いに飲み込みました。

 ――あれはッ!?


「――う、ぐ、グアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 フリッツさんの身体が見る見るうちに肥大化していき、頭から禍々しい2本の角が生え、背中からは巨大なコウモリの羽のようなものが生えてきました。

 そして両手の爪は、猛禽類のように鋭く尖ったのです。

 まるで悪魔のような風貌になってしまいました――。

 なるほど、この男は、【魔神の涙】を流している組織の人間だったのですわね……!?

 『あのお方』というのは、組織のボスに違いありませんわ。

 ――遂に。

 遂に組織の尻尾を掴んだかもしれませんわ!


「ハハハハハ!! ドうでスこの力は!! 実に素晴らしイでしょウ!?」


 し、しかもこの男、まだ人間としての意識がある!?

 【魔神の涙】は、日々改良されているようですわね……!

 これはいよいよ、本格的に看過できない事態になってきましたわ――。

 くっ、マズいですわ。

 おそらくこの男にも、あの異常な再生能力があるはず。

 魔力が切れてしまった今のわたくしでは、この男を倒すことは……。


「――訃舷ふげん一刀流いっとうりゅう奥義――【雁渡かりわたし】」

「「「――!!!」」」

「…………え?」


 その時でした。

 ジュウベエ隊長の【雁渡かりわたし】で、フリッツの首は胴体と別れ、地面にゴロンと転がったのでした。

 えーーー!?!?!?


「そ……そんな……、バカ……な……」


 フリッツは白目を剥いて、ピクリとも動かなくなりましたわ。

 何という呆気ない幕切れ……。

 これで何度目かわかりませんが、ジュウベエ隊長がいて、マジで助かりましたわ。

 それにしても、異常な再生能力を持つ【魔神の涙】服用者も、首を切れば再生はできないということがわかりましたわね。

 これは思わぬ収穫ですわ!


「アッハッハ! 九尾の狐戦では大して役に立っていなかったでござるから、これで少しは格好ついたでござるかな?」

「いえいえ、九尾の狐戦でも大活躍でしたわ、ジュウベエ隊長。ありがとう存じますわ」

「ニャッポリート」


 特にどんな苦境に立たされても、決して微動だにしないその鋼のメンタルは、わたくしも見習うところがございますわ。


「ニンニン、殿、お疲れ様でございます。こちらはお酒です、ニンニン」

「おお! かたじけないでござる!」


 どこからともなくコタ副隊長が取り出したお酒を、実に美味しそうにがぶ飲みするジュウベエ隊長。

 ……わたくしもお酒を飲めば、ジュウベエ隊長みたいな鋼のメンタルになれるのでしょうか?

 ま、まあ、とはいえ、これで念願の『ドッペルフォックスの爪』を手に入れましたわ!

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?