「では拙者が案内するでござる。みんなこっちでござる」
地元民であるジュウベエ隊長の後について行くわたくしたち。
本当にジュウベエ隊長がご一緒で助かりましたわ。
やはり知らない土地は、地元の方に案内していただくのが、一番確実ですからね。
「ここがトウエイの中心地、エドゥでござる」
ホウ、ここが。
王都に負けず劣らずの、人通りの多さですわね。
もう陽が落ちかけているにもかかわらず、昼間みたいに明るいですわ。
差し詰め眠らない街といったところでしょうか。
「わあ、みんなジュウベエ隊長みたいな格好してるにゃ!」
「アッハッハ! そりゃあトウエイでござるからなあ」
「ニャッポリート」
確かに街行く人たちはみなさんジュウベエ隊長と同じ着物姿で、ほとんどの方は黒髪です。
中には何人か、ジュウベエ隊長同様左腰に刀を差している方もいますわね。
おそらくトウエイ地方騎士団の人間ですわ。
建物も木造の平屋が大半を占めており、同じ国なのに王都とは別世界ですわね。
つくづく文化の違いを感じますわ。
「ニンニン」
ただ、やはりコタ副隊長みたいな格好をしている人は一人もいませんわね。
本当に忍って、実在しているのでしょうか?
まあ、もちろん忍も、普段から忍装束を着て生活しているわけではないのでしょうが。
コタ副隊長が常に忍装束を着ているのは、ある種のパフォーマンスなのかもしれませんわね。
「あっ! あのおねえさん、凄い美人だにゃ!」
ボニャルくんが指差したほうを見ると、そこにはそれはそれは華やかな衣装に身を包んだ人たちで構成されている、行列が出来ていました。
その中心にいる女性は、中でも一際煌びやかに着飾っており、溜め息が出るほど妖艶でお美しい方でした。
美女は時を踏み締めるように、優雅に、そして厳かに歩いています。
凄い……。
まるで絵画ですわ。
「ああ、あれは
「花魁?」
「うむ、花魁とは遊女の中でも最高峰の位にいる人間のことでござる」
「遊女、って、何ですにゃ?」
「アッハッハ! まあ、坊主も大人になったらわかるでござるよ」
「??」
「ちょっとジュウベエ隊長! ボニャルくんに変なこと教えないでください!」
なるほど、遊女ですか。
「ふむ、つまりあれは花魁
「オオ! 流石はラース殿、よくご存知でござるな」
ラース先生!?
「ええ、いつかトウエイ地方を舞台にした小説を書こうと思っていまして、トウエイの文化は一通り調べてますから」
ラース先生がメガネをクイと上げます。
デタ!
ラース先生のチート知識!
ひょっとしてラース先生って、小説のために、この世の大半のことを調べているのでは……!?
相変わらずとんでもないお方ですわぁ……。
「おや? おやおやおやおや、これはこれは、大層お美しいお方でありんすなぁ」
「ほ?」
その時でした。
わたくしと目が合った花魁さんが、ツカツカとこちらに近付いて来られました。
お、お美しい??
わたくしが??
「そのお綺麗な金髪縦ロール、王都から来られたでありんす?」
「え、ええ、そうですが……」
「うふふ、それはそれは遠路はるばる。どうです、旅の記念に、お嬢さんも花魁の格好をしてみないでありんすか?」
「「「――!!」」」
えーーー!?!?!?
わたくしが、その格好、を???
「ふおおおおおおおお!!!! 最高じゃないですかそれえええええ!!!! 是非しましょう!! 花魁になりましょう、ヴィクトリア隊長!!」
「レベッカさん!?!?」
例によってレベッカさんが、盛大に鼻血を噴き出しておりますわ!
「うんうん! イイですねイイですね! 花魁になりましょう、ヴィクトリア隊長!」
「ラース先生!?!?」
ラース先生がメガネを何度もクイクイ上げます。
ラース先生まで???
みなさんいったい、どうしてしまったというのですかああああ????
「うふふ、決まりでありんすな。皆の衆、おもてなしして差し上げるでありんす!」
「「「はーい!」」」
その時でした。
花魁さんの周りにいた付き人のような女性たちが、わたくしを取り囲みました。
ふおっ!?
「「「そーれそーれそーれそーれ」」」
「あ、あーーーれーーーー」
そしてわたくしは、付き人さんたちに連行されていったのですわ――。
ど、どうしてこんなことにいいいいいいい。
「ウボァー!!!! ヴィ、ヴィクトリア隊長、お綺麗ですうううううううう!!!!!!」
「あ、あまり見ないでくださいまし!」
わたくしの花魁姿を見た途端、案の定噴水鼻血になったレベッカさん。
「うんうんうん! イイですねイイですね! イメージが降り立ってきましたよ! 次の小説は、遊郭を舞台にしたものにします!」
「ラース先生!?」
ラース先生が高速でメガネをクイクイさせながら、鼻息を荒くしてらっしゃいます。
そんなに速くクイクイさせたら、逆に見づらくないですか???
それにしても、この花魁の格好、とっても恥ずかしいですわぁ~~~~。
何せ肩を丸出しにしているのですから。
遊女だからセクシーさを演出するためにこうしているのでしょうが、わたくしには役不足ですわ!(あ、役不足って、こういう時に使う言葉ではないのでしたっけ?)
――ただ、この
縦ロールとはまた違った優雅さがありますわ。
ウフフ、これは新たな発見ですわね。
「おやおや、やはりわっちの見立て通り、よく似合ってるでありんすなぁ。とってもお綺麗でありんすよ、ヴィクトリアさん」
「あ、そ、それはどうも、恐縮ですわ」
花魁さんが蕩けるような笑みを、わたくしに向けてくださいます。
はわぁ、女のわたくしでも、思わず見蕩れてしまいますわぁ……。
左の目元にある泣きぼくろも、とってもセクシーですし。
母なる海を彷彿とさせるような豊かなお胸も、圧巻の一言ですわ。
流石花魁。
格が違いますわぁ。
「その衣装はヴィクトリアさんに差し上げるでありんす。どうか大事にしてくりゃれ」
「えっ!?」
花魁さん???
「そ、そういうわけにはまいりませんわ!」
これ絶対、お高いでしょうに!
「いいんでありんす。その衣装も、ヴィクトリアさんに着てもらって、喜んでるでありんす。衣装は似合う人間に着てもらうことが、一番の幸せなんでありんすよ」
「……!」
花魁さん……。
「いいじゃないですかヴィクトリア隊長! 花魁さんもこう仰ってるんですから!」
「うんうんうん! その通りですよ! せっかくのご厚意なんですから、甘えましょう!」
「ヴィクトリア隊長、とってもお綺麗だにゃ!」
「ニャッポリート」
「アッハッハ! 馬子にも衣装でござるなぁ」
「ニンニン」
ジュウベエ隊長だけ小バカにしてませんか!?
「……で、では、お言葉に甘えますわ」
「うふふ、それはよかったでありんす」
これは早速、波乱の幕開けですわぁ~~~~。