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第30話:テンション上がってきましたわ!

「ニャッボリート」


 まさかニャッポに、巨大化というこんな特性があったなんて。

 流石伝説の魔獣ですわね。

 鳴き声もいつものニャッ『ポ』リートではなく、ニャッ『ボ』リートと野太いものになっていますし。

 翼も大層立派になっておりますわ。


「ニャッボリート」

「「「――!?」」」


 その時でした。

 ニャッポが口を大きく開け、息を吸い込んだのです。


「う、うわっ!?」

「にゃあ!?」

「これは!?」


 そしてわたくしたちは、ニャッポの口の中に吸い込まれて行きました――。




「にゃあ! 凄いにゃあ!」


 いつの間にかわたくしたちは、真っ白で果てしなく広い空間に立っていました。

 目の前には飲み物が置かれた大きなテーブルが一つと、椅子がいくつか置かれています。

 ここが、ニャッポの体内?

 その割には、いくら何でも広すぎますわ。

 果てが見えませんもの。

 ニャッポの魔力で造られた、亜空間的なものといったところでしょうか?


『ニャッボリート』


 上からニャッポの鳴き声が響いてきました。


「「「――!」」」


 そしてテーブルの上空辺りに、外の風景の映像が映し出されたのです。

 これは、ニャッポの視界でしょうか?


『ニャッボリート』


 ニャッポはバサリと浮かび上がり、そのまま強風を物ともせず、東のほうに飛び立ちました。

 ニャッポ――!


「もしかしてニャッポ、このままわたくしたちをトウエイに運んでくれるのですか?」

『ニャッボリート』


 まあ、何と至れり尽くせりな。

 ウフフ、これは後で、たっぷりとお礼をしませんとね。


「アッハッハ! 流石でござるな! では拙者は、酒でも飲みながら暫し空の旅を楽しむとするでござる」

「ニンニン」


 ジュウベエ隊長は椅子にドカッと座ると、先ほど買った酒をまたラッパ飲みし始めました。

 コタ副隊長は椅子には座らずに、ジュウベエ隊長の後方で腕を組んで待機しております。

 コタ副隊長が腕を組むと、ご立派なお胸が更に強調されますわね……。


「ボクはここがどれくらい広いか、調べてくるにゃあ」

「あ、ボニャルくん、私も行くよ」


 ボニャルくんとレベッカさんは、トテトテと走って行かれました。

 ウフフ、ボニャルくんは元気ですわね。


「ヴィクトリア隊長、僕たちも座りましょう」


 ラース先生はコップに飲み物を入れて、わたくしの前に置いてくださりました。


「恐縮ですわ」


 わたくしは椅子に座り、コップを手に取ります。

 コップの中の白い液体を一口飲むと、どうやらこれはミルクのようでした。

 ニャッポはミルクが大好きですからね。

 このミルクも、ニャッポがどこかで仕入れたものなのでしょうか?

 謎は深まるばかりですわ――。




「オオ! もうトウエイに着いたでござる!」


 3時間ほど飛んだでしょうか。

 外の映像に、細長い島が見えてきました。

 あれがトウエイ地方ですか。

 わたくしは子どもの頃、お父様と修行で世界各地を回りましたが、トウエイは東の果てにあることもあって、一度も行ったことはございません。

 やはり新しい土地に降り立つ瞬間というのは、心が踊りますわね。

 それにしても、飛空艇でも6時間掛かる距離を、僅か3時間で飛んでしまうとは。

 ニャッポの飛行能力には、ただただ驚くばかりですわ。


「ふにゃ!? も、もうトウエイかにゃ!?」

「うん、着いたよ、ボニャルくん」


 走り疲れてテーブルに突っ伏して寝ていたボニャルくんが、ムクリと起き上がりました。

 その隣でボニャルくんの寝顔をニヤニヤしながら眺めていたレベッカさんが、ボニャルくんの頭をよしよしと撫でます。

 お二人はこの空間がどのくらい広いのか調べていたのですが、到頭果てには辿り着かなかったそうですわ。

 それだけ広大な空間ということでしょう。

 これはニャッポさえその気になってくれれば、王立騎士団の人間を全員一斉に移動させるなんてことも可能かもしれませんわね。

 疑似的な空間転移魔法と言っても過言ではないかもしれません。

 空間転移魔法は、おとぎ話の中にしか出てこない、人類の夢の一つですわ。

 まさかそれが、こんな形で叶うとは――。

 ニャッポはスゴイ、わたくしはいろんな意味で思いました。




『ニャッボリート』


 ニャッポは街の近くにあった森の中に、ふわりと下りました。

 すると――。


「「「――!」」」


 わたくしたちの身体が宙に浮き始めたのです。

 これは――。


「いやあ、実に久しぶりでござるな、トウエイ! 空気が美味いでござる!」


 気が付くとわたくしたちは、森の中に立っていました。


「ニャッポ、本当に助かりましたわ。ありがとうございますわ」

「ニャッポ様、ありがとうだにゃ!」

「ニャッボリート」

「「「――!」」」


 またしてもニャッポの全身が輝き出し、目を開けていられないほどの光を放ち出しました。

 そして光が収まると――。


「ニャッポリート」


 ニャッポはいつもの可愛らしいサイズに戻っていたのですわ。

 小さな羽でパタパタと飛んで、定位置であるわたくしの左肩にちょこんと乗りました。


「フフ、本当にお疲れ様でしたわ、ニャッポ」

「ニャッポリート」


 わたくしはニャッポの頭を、よしよしと撫でます。

 さあて、初のトウエイ地方散策、テンション上がってきましたわ!

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