「あ、そうでした。レベッカさんに訊きたいことがあったのでしたわ」
三人で第三部隊の詰所に戻っている途中で、わたくしは大事なことを思い出しました。
「あ、はい! 何でしょうかヴィクトリア隊長!? 何でも訊いてください! 因みに好きなものは、強くて可愛い女の子です!」
いや、別にそれは訊いてないですわ。
「レベッカさんは魔獣にお詳しいですわよね? 『ドッペルフォックス』という魔獣をご存知ですか?」
「ドッペルフォックスですか! 確か、トウエイ地方に生息すると言い伝えられている、伝説の魔獣です」
ホホウ、流石レベッカさんですわ。
魔獣のことなら、レベッカさんにお訊きすれば間違いないですわね。
「鋭い爪を持ったキツネ型の魔獣で、ドッペルフォックスに遭遇してしまった者は、例外なく死んでしまうと言われている、とても危険で謎の多い存在だとか」
「へえ、遭遇したら例外なく死ぬなら、何故そんな伝承が残っているのでしょうね?」
「アハハ、まあ、この手の話には尾ひれがつきやすいものなので、実際は何人か生き残った人間がいたのかもしれません」
フム、そんなものですか。
ですが、トウエイ地方となると、ここからだと大分遠いですわね。
ラース先生の槍をホルガーさんに作っていただくためにも、『ドッペルフォックスの爪』は、是非ともゲットしたいところですが。
「どうでしょうラース先生、いずれ長期の休みが取れた際には、二人でトウエイ地方に旅行するというのは」
「あ、はい! いいですね、それ!」
「ハアアアア!?!? ふふふふふ、二人で旅行おおおおお!?!? そそそそそそ、そんなの絶対に不純ですッ!! もし行くなら、私も同行させてもらいますからね!?」
「あ、はい、それは構いませんが……」
何故不純なのでしょうか?
わたくしたちは、槍の素材を探すために行くだけですのに。
「クッ、せっかくのチャンスだったのに……!」
ラース先生??
チャンス、とは??
「抜け駆けは絶対に許しませんからねッ!?」
レベッカさんがラース先生に喰って掛かります。
「ふふ、でも、こういうのは、早い者勝ちですからね」
「何をををををッ!?!?」
け、喧嘩はやめてくださいまし~~~~。
何故この二人は、こんなにいがみ合っているのですか~~~~????
ここは、何とか話題を変えませんと……!
「レベッカさん、もう一匹訊きたい魔獣がいるのです!」
「あ、はい! 何でも訊いてくださいヴィクトリア隊長! 私はヴィクトリア隊長の右腕ですのでッ!」
圧が強い。
そんなに強調しなくても、わたくしの右腕はレベッカさんだけですわよ?
「『フェザーキャット』という魔獣はご存知でしょうか?」
「フェザーキャット! はいはいはい! もちろん知ってますとも! イイタ地方に生息する伝説の魔獣で、その名の通り天使のような羽の生えた猫型の魔獣です。年に一度羽が生え変わるのですが、その際の抜け羽には、膨大な魔力を蓄積する効果があると言われています」
膨大な魔力を……蓄積!
なるほど、ホルガーさんがラース先生の鎧の素材に、『フェザーキャットの抜け羽』を指定した理由がわかった気がしますわ。
「イイタ地方の奥地にいるとある部族は、フェザーキャットを神のように崇めているという話も聞いたことがあります」
マジでレベッカさんは魔獣のことなら何でも知ってますわね!
大変心強いですわぁ。
イイタ地方なら、トウエイ地方よりは近いですし、何なら……。
「ありがとうございますレベッカさん。助かりましたわ」
「いえいえ! また魔獣のことなら何でも訊いてください! 私はヴィクトリア隊長の右腕ですのでッッ!!」
だから圧が強いですって!?
「えー、みなさん、本日はみなさんに、新しい仲間を紹介いたしますわ」
第三部隊の詰所に戻ったわたくしは、早速みなさんにラース先生を紹介します。
「は、はじめまして! ラース・エンデと申します! まだまだ若輩者ではございますが、精一杯精進いたしますので、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします!」
ラース先生は第三部隊のみなさんに、深く頭を下げます。
うんうん、ラース先生はゲロルトと違ってとても礼儀正しいので、好感が持てますわぁ。
「ラース・エンデ!? ラース・エンデってあの、小説家のラース・エンデか!?」
「お、俺、小説全部持ってるよ!」
「俺も俺も!」
オオ!
流石ラース先生!
有名人ですわね。
「ウオオ、まさかあのラース・エンデと同僚になれるとはよ! なあ、後でサインくれよ!」
「俺も俺も!」
「あ、はい、もちろん!」
ウフフ、どうやらラース先生は、第三部隊のみなさんとも上手くやっていけそうですわね。
「ぐぬぬぬぬ」
まあ、そんなラース先生のことを、嫉妬にまみれた瞳で睨んでいるレベッカさんのことだけは、若干気掛かりではありますが……。
何はともあれ、今日から新生第三部隊の発足ですわ!