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第8話:模擬戦ですわ!

「ヒイイイイイイイ!?!?」


 【バニーテン】を目の当たりにしたレベッカさんが、自身の鳥肌をさすりながら悲鳴を上げます。

 さもありなんですわ。

 誰だって急に目の前に、バニーガール姿のイケメンが10人も現れたらこうなります。

 【バニーテン】は第五部隊の隊員の中からアンネリーゼ隊長が選りすぐった、特に強い精鋭10人に対する通称。

 その名の通り、全員がバニーガールの格好をしているのが特徴ですわ。

 因みにこの格好は、アンネリーゼ隊長の趣味とのこと。


「やれやれ、相変わらず下品な趣味をしてらっしゃいますわね。本来なら国民の平和と風紀を守る存在である騎士団員が、乱す側になったら本末転倒ですわ」

「アラアラアラ、これは見解の相違ね【武神令嬢ヴァルキュリア】。いいこと? これは芸術なのよ。真の美しさとは、10人のイケメンがバニーガール姿になることでしか表現できないものなの。私は10人のバニーガールイケメンを世に放つことで、臣民の芸術に対する目を鍛えてあげようとしているのよ。これは私なりの、ボランティアなのよ【武神令嬢ヴァルキュリア】」


 アンネリーゼ隊長は依然頬杖をついたまま、誇らしげにそう演説します。

 そういうのを余計なお世話と言うのですわよ?

 ボランティアと称して、10人のバニーガールイケメン変態を放たれる側の気持ちにもなってくださいまし。


「まあ、この件に関してはどれだけ議論したところで平行線でしょうし、置いておきますわ。――それよりも、さっさと勝負を始めましょう」

「アラアラアラ、私としてはあと2時間くらいこの件で【武神令嬢ヴァルキュリア】と語り合いたいところなのだけれど」


 どんな拷問ですかそれは!?


「アナタがそこまで言うなら致し方ないわね。訓練場に行きましょう」

「……承知いたしましたわ」


 やれやれ、戦う前からどっと疲れましたわ。

 もしや、これもアンネリーゼ隊長の作戦のうちなのでしょうか?


「さあ、私の可愛い【バニーテン】、私を訓練場まで運びなさい!」

「「「「「「「「「「はい、アンネリーゼ様!」」」」」」」」」」


 アンネリーゼ隊長が右手の指をパチンと鳴らすと、【バニーテン】のみなさんが豪奢な椅子ごと、神輿のようにアンネリーゼ隊長を担ぎ上げました。

 アンネリーゼ隊長はどこに移動するにも、常にこうやって椅子ごと誰かに運んでもらっているのですわ。

 わたくしはアンネリーゼ隊長がご自分の足で立っているところを、一度も見たことがございません。

 トイレの時とかは、どうしているのでしょう……?




「ウフフ、準備はいいかしら、【武神令嬢ヴァルキュリア】?」

「ええ、いつでも」


 訓練場にやって来たわたくしは、訓練用の木剣を左右に一本ずつ持ち、【バニーテン】のみなさんと対峙します。

 【バニーテン】のみなさんも、それぞれ木剣を握られておりますわ。


「結構。では最後にルール確認よ。といってもルールは単純明快。【武神令嬢ヴァルキュリア】が同時に【バニーテン】10人と模擬戦をして、全員戦闘不能にできたら【武神令嬢ヴァルキュリア】の勝ち。ただし【武神令嬢ヴァルキュリア】は魔力の使用は一切不可。よろしいかしら?」

「ええ、委細承知ですわ」

「ヴィクトリア隊長……」


 ラース先生がまた、戦場に夫を送り出す新妻のような瞳でわたくしを見つめます。

 フフフ。


「大丈夫ですわラース先生。ラース先生のためにも、わたくしは必ず勝ってみせますわ。ですからどうか、そこで見守っていてくださいまし」

「は、はい!」

「うがああああ!!! 脳が……!! 脳が破壊されるううう……!!!」

「レベッカさん!?」


 どうしたのですか急に!?

 医務室行きますか!?


「ウフフ、では模擬戦、始め!」


 頬杖をついたまま、アンネリーゼ隊長が右手の指をパチンと鳴らしました。

 さて、どうやって攻めましょうか。


「バニー9号、バニー10号、行け!」

「「ハッ!」」


 お腹の部分に『1』と書かれたバニーボーイさんが、『9』と『10』と書かれたバニーボーイさんに指示を出しました。

 どうやらあのバニー1号さんが、リーダーのようですわね。

 9号さんと10号さんは一歩前に出て、木剣に魔力を込めます。


「「楽園は回る炎で閉ざされる

 ――魔法剣【輪を描いて回る炎の剣ラハット・ハヘレヴ・ハミトゥハペヘット】」」


 9号さんと10号さんの木剣に、蛇の形をした炎が纏わりつきました。


「「ハァッ!」」


 そして二人がわたくしに突貫しながら木剣を振り下ろすと、木剣から炎の蛇が放たれ、それが輪を描いて回りながらわたくしに向かって来たのですわ。

 フム、いつもならこちらも魔力を放って掻き消すところですが、今回は魔力の使用は禁止ですし、どうしたものでしょうか。


「「ヴィクトリア隊長ッ!」」


 ラース先生とレベッカさんが、同時に声を上げます。


「フフ、心配はご無用ですわ、お二人とも」

「「――!!」」


 わたくしは左右の木剣を思い切り振り回し、炎を搔き消したのです。

 魔力がないなら、風を使えばいいのですわ。


「「ヴィクトリア隊長オオオオオオオオ!!!!」」


 ラース先生とレベッカさんは、まったく同じ顔で歓喜しています。

 ウフフ、本当にお二人は、リアクションが似てますわね。


「セイッ!」

「ぐえっ!?」

「ぎゃっ!?」


 そのままの流れで、わたくしは9号さんと10号さんの頭を左右の木剣で叩きます。

 二人は白目を剥きながら、その場に崩れ落ちましたわ。

 フム、これで残るは8人。


「クッ……! バニー8号、バニー7号、バニー6号、3人だ! 3人で取り囲んで同時に斬り掛かれ!」

「「「ハッ!」」」


 1号さんが8号さんと7号さんと6号さんに指示を出すと、3人は絵に描いたような等間隔でわたくしを取り囲みました。

 ホホウ、流石のチームワークですわね。


「「「ハァッ!」」


 そして3人同時に木剣を突き刺してきました。

 なるほど、2本までならわたくしも左右の木剣で受けられますが、3本となると腕の数が足りませんわね。

 ――ここは。


「ほいっと」

「「「なぁっ!?」」」


 わたくしは足を180度前後に開いてその場にペタンと沈み、突きを避けました。


「セイッ!」

「「「っ!!?」」」


 そしてそのまま手を軸にしてコンパスのように足を回転させ、3人を足払いで転倒させたのですわ。


「セイッ! セイッ!! セーーーイッ!!!」

「ぷぎゅっ!?」

「ぴもっ!?」

「ぺっ!?」


 素早く起き上がったわたくしは、ハイヒールの踵で3人の顔面を思い切り踏みつけました。

 3人は白目を剥いて、気を失いましたわ。

 ヨシ、これで残るは5人。


「「ヴィクトリア隊長オオオオオオオオオオ!!!!!!」」


 ラース先生とレベッカさんが、興奮しすぎて気を失う前に決着をつけたいところですわね。


「クソがぁ……!! バニー5号、バニー4号、バニー3号、バニー2号、4人で取り囲んで、同時に魔法剣で攻撃しろッ!」

「「「「ハッ!」」」」


 今度は5号さんと4号さんと3号さんと2号さんの4人が、等間隔で距離を取りながらわたくしを取り囲みます。


「楽園は回る炎で閉ざされる

 ――魔法剣【輪を描いて回る炎の剣ラハット・ハヘレヴ・ハミトゥハペヘット】」


「氷の神霊は刀身に宿る

 ――魔法剣【神霊が憑依する氷の剣クトネシリカ】」


「英雄の名は雷鳴と共に響く

 ――魔法剣【英雄が振るう雷の剣スル・カイツァキン】」


「四つの風が竜を屠る

 ――魔法剣【竜をも穿つ風の剣イムフル】」


 4人の木剣がそれぞれ、炎、氷、雷、風を纏います。

 ウム、4人とも、見事な魔法剣ですわ。


「「「「ハァッ!」」」


 そして4人が同時に、炎、氷、雷、風をわたくしに放ちました。

 これは、先ほどのようにしゃがんで避けるというわけにはまいりませんわね。


「「ヴィクトリア隊長ッ!」」


 ラース先生とレベッカさんが、同時に声を上げます。

 本当にお二人は、息ピッタリですわね。

 炎、氷、雷、風がぶつかった瞬間、空気を切り裂く轟音が鳴り響き、発生した煙で辺りは白く包まれました。


「やったか!?」


 1号さんがガッツポーズを取ります。

 アラアラ、それはこういう時、一番言ってはいけないフラグですわよ?


「わたくしはここですわ」

「「「「っ!!?」」」」


 煙が晴れた途端、みなさん言葉を失いました。

 炎、氷、雷、風がぶつかるその刹那、垂直にジャンプしたわたくしは、、天井に張り付いていたのですわ。


「ほいっと」

「どむっ!?」


 天井から木剣を抜いたわたくしは、そのまま重力を利用し、落下しながら5号さんの頭に木剣を振り下ろしました。


「セイッ!」

「ぐふっ!?」


 続いて横にいた4号さんのお腹に、突き蹴りを入れます。


「セイッ!!」

「ぎゃんっ!?」


 そして3号さんの側頭部を木剣で打ち。


「セーーーイッ!!!」

「ざーーーくっ!?」


 最後は2号さんの顎にサマーソルトキックをお見舞いしたのですわ。

 おっと、淑女ともあろうものが、一瞬だけ下着が見えてしまったかもしれませんわね。

 はしたなかったですわ。


「さて、残るはあなただけですわよ、1号さん」

「ぐぅっ!」

「「ヴィクトリア隊長オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」」


 ラース先生とレベッカさんは、『ヴィクトリア隊長♡』と書かれたうちわを両手に持ちながら、大歓喜しています。

 そんなもの、いつの間に用意したのですか!?


「う、うおおおおおおおおお!!!」


 1号さんは木剣を上段に構えながらわたくしに突貫し、木剣を振り下ろしてきました。

 ウム、迷いのない、実に良い太刀筋ですわ。

 ――ですが。


「ほいっと」

「はうあっ!?」


 わたくしは左右の木剣をクロスしてそれを受けると、カウンターで1号さんの前蹴りを入れたのです。


「あばばばばば……」


 1号さんは白い泡を吹きながら、その場に崩れ落ちました。


「うわぁ……」


 ラース先生が若干前屈みになりながら、青ざめた顔をします。

 女のわたくしにはイマイチわからない感覚ですが、やはり相当に痛いようですわね、これ?


「ヴィクトリア隊長、素敵ですううううううッッッッ!!!!!!!!」


 ラストは恒例のレベッカさんの鼻血で締め。


「フム、これにて一件落着ですわ」


 わたくしは木剣を鞘に収め……ようとしましたが、鞘はなかったですわね。

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