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第30話 そして今年が終わった

「もーういーくつねーるーとー、おーしょーうーがーつー♪」

「杏、あと1回だぞ。」


今年もあと数時間。もうそろそろ日付も変わる。


「ぬくぬく♪久志、みかん取って。」

「動け〜、桜〜。」


この2人の年末テンションは本当に面倒くさい。杏はいつも通りボケ倒すし、桜はソファに座ったまま動こうとしない。


「いい時間だから年越しそば作るぞ。手伝ってくれ。せめてニシンの盛り付けくらいは。」

「バカ兄ファイト!」

「久志、ガンバ!」


やっぱり一切手伝う気はないみたいだ。別にいいが。そばをゆがいて、お椀に入れて、つゆを注いで、ニシンをのっける。


「できたぞ。」


そう呼びかけると、2人はゆっくりと立ち上がり、椅子に座った。


『いただきます。』


とりあえず、そばを啜る。上手くできていてよかった。


「今年最後の食事か…」

「今年は色々あったね。」

「今までで一番濃かった1年だった。」


思い返してみると、うちに桜が来たことから始まったんだよな。これまでじゃ考えられないほど遊んだ1年間だった。教室で誰かといることも久しぶりだったし、行き帰りを一緒にする友達もできた。


「桜、来てくれてありがとうな。」

「私こそ、居させてくれてありがとう。あのとき、私を家に入れてくれたから、それからが本当に楽しくなったよ。」


桜は顔をクシャっとして笑う。俺は今年、この笑顔を数えきれないほど貰った。それなら、少しくらい素直に話してみてもいいかもしれない。


「あのさ、俺さ、大学は外に出ようと思うんだ。たぶん福井の大学。まだ探してる最中だけど、このまま上に上がっても、水産系の学部ないから、外に出ることは確定だと思う。だから、みんなと過ごすのも、あと2年ちょいくらいだから、来年ももっと楽しめたらいいな。」


杏にも言ったことのない俺のこと。こんなの、こういう時にしか言える気がしない。


「私は久志のことを応援するよ。だから、いっぱい楽しもうね。」

「バカ兄はバカだけど、家族として応援したげる。」


あまりにも素直に応援してくれる2人に、少し嬉しくなった。


 年越し10分前。


「すーっ、すーっ…」


杏はソファで寝息をたてている。さっきまで見ていた音楽特番からチャンネルを変えて、桜と2チャンネルでやっている番組の年越しスペシャルを見ていた。


「このドジョウ好きなんだ。あぁ、やっぱり可愛いなぁ。」

「面白い要素もあるのがいいよな。」

「本当にそう!」


今年の干支ソングが流れて、時計の画面に変わった。


―プッ、プッ、プッ、ゴーン


―ピロン


俺と桜のスマホに同時に通知がきた。『KYUKA組』に1のマークがついている。


『Kaede:みんなあけおめ!』

『奏:あけおめ!ことよろ!』

『きの:あけおめ!今年もよろしく!』

『OtO:あけおめ!今年もよろしくね!』


少し時間があって


―シュポ


『桜:みんなあけおめ!今年も1年間、よろしくね!』


横を向けば、桜が笑っていた。


「なんか嬉しそうやん。送っちゃえば?それとも、見られたくない内容?」

「違うっつうの!送るから!」


―シュポ


「みんなあけおめ!去年も1年間楽しかったから、今年も1年よろしくな。」


『今年が楽しみ』なんて思うなんて初めてだ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※


第3章、これにて完結です!

次の章からはキャラそれぞれの過去編もたまに挟んでいきます!もちろん、通常の時間の流れに沿ったストーリーも更新していく予定です!

これからもよろしくお願いします!

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