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第29話 そして聖夜は持ってきた③

「ただいま!」

「おかえり!思ったより早かったね。ご飯の用意してる最中だから、バカ兄は手伝ってね。他の皆さんはゆったりしててください。」

「おい、杏。俺の扱い酷くないか?」

「いつも通りだよ。」


杏ちゃんに呼ばれて、Qはキッチンへ。俺たちはリビングのソファに座って待つことにした。


「なぁ、桜。いつもこんな感じなのか?」

「いつもってほどでは無いけど、こんな感じかな。めちゃくちゃ仲いいよ。」


1度、キッチンを見る。お互いに無言で、それでも、動きやすいような動きをしている。話さなくても通じてるみたいな。


「もうそろそろ5時か。桜さん、ケーキ受け取ってきて。」

「分かった、行ってくる!」


何かを揚げている音がした時、杏ちゃんがそう言う。桜は財布とQの自転車の鍵を持って外に出ていった。


「皆さん、あとはあのバカ兄がポテト揚げ終わって、フランスパン焼いたら出来るんですけど、まだ食べませんよね。」

「ううん、もう食べちゃって、あとで遊ぶのもいいから、先食べちゃおう。」

「了解です。じゃあ、盛り付けだけ手伝ってもらっていいですか?」

『もちろん!』


杏ちゃんはキッチンから少し大きな両手鍋を持ってくる。鍋にはビーフシチューが入っている。


「これ全員分分けてください。」


白い器を7個置いて、杏ちゃんはまたキッチンに戻って行った。多分、フランスパンを切っているんだろう。


「美味しそうな匂いがする。」


楓が鍋のビーフシチューの匂いでとろけている。俺は、全員分のシチューをついでいく。横で楓がパセリをかけて、音羽ときいが端から順番に置いていく。分け終わると、桜が帰ってきた。


「ケーキはとりあえず玄関に置いてるよ。久志、鍵はテーブルの上に置いとくよ。」

「おけ。こっちももうすぐできるから。」


器にポテトを入れたQがリビングの机にそれを置いて、またキッチンに戻っていく。次は、大皿を持ってきた。


「本日のメインディッシュはトンテキだ。」

「おお、美味しそう!」

「礼なら杏に言っとけ。これに関しては全部杏がやってくれたからな。」

「杏ちゃん、ありがとう。」


次に杏ちゃんがスキレットとフランスパンを持って出てくる。


「こっちも出来上がったから食べましょう!」


スキレットの中にはアヒージョが入っている。これをフランスパンに乗せて食べるのか。


『いただきます!』


好きなところに座った俺たちは、手を合わせる。まずはトンテキから。ナイフを入れると、何の引っかかりもなく切れていく。口に運ぶと、溶けるように口の中で消えていった。


「美味い。」

「よかった〜。」


杏ちゃんの安堵した声が響く。俺たちには初めて振る舞うから結構緊張したんだろう。


「このビーフシチューも美味しい。これも杏ちゃん?」

「そうだよ、きい姉。上手くできてる?」

「もちろん!」


杏ちゃんの料理スキルすごいな。今のところ食べた料理でハズレがない。料理全般得意なのかな?


「Qが作ったのは?」

「そのポテトとアヒージョ。」

「アヒージョは杏ちゃんだと思ってた。」


音羽が少し驚いている。まさか、Qまでも料理出来たとは。由良家の料理に舌鼓を打ちながら夜は更けていく。


 8時過ぎになって、女子たちが先に風呂から上がってくる。次に俺たち。少し甘い匂いがしたが、あまり深く考えるのはやめておこう。


「おかえり〜!コーヒー入ってるよ。」

「ありがとう、楓。」


リビングではケーキを食べる準備が整っていた。


「んじゃ、切るよ!」


箱の中から砂糖いっぱいのドーナツ状のケーキを取り出して、音羽が上手く7等分する。てか、音羽分けるのめっちゃ上手いな。


『いただきます!』


また手を合わせて、フォークで1口サイズにカットして口に運ぶ。このケーキは近くのケーキ屋のやつだから何回も食べたことがあるけど、やっぱり美味い。甘さがしつこくなくて、自然とフォークが進む。


「やっぱりここら辺でケーキといえばこのケーキだよね。」

「そうだね、山の上まで行かないといけないけれど、この味が食べられるなら何回でも行きたいね。」


 ケーキを食べ終わった俺たちは、ジュースを飲みながら、眠くなるのを待つ。そこまでは今年1年の思い出とかを話して。楽しくなって楓がうとうとしているのに気づかなかった。コテンと俺の肩に頭を乗せて、もう寝そうだ。


「お開きにしようか。楓、寝るよ。」

「んんっ。」


女子は杏ちゃんの部屋と桜の部屋にわかれて寝るみたいなので、俺たちはQの部屋で寝ることになる。


「「おやすみ。」」

『おやすみ〜!』


隣の部屋に入っていく女子たちにそれだけ言って、俺たちは部屋に入る。


「なあなあ、最近進展とかあった?」

「何もねぇよ。奏こそあったか?」

「こっちもだ。」


同じタイミングでため息をつく。向こうの部屋でもキャッキャ言ってるから、どうせ恋バナでもしてるんだろ。Qが静かに口を開いた。


「でもな、俺、たぶん好きな人ならできたぞ。」

「ほうほう。たぶんって何か知りたいが、どこの宇宙人だ?」

「お前、ぶっ殺すぞ。」

「じゃあ誰なんだよ。」

「耳貸せ。」

「おう。」


耳をQに近づける。


「(…)」

「やっぱりかぁ。」

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