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第27話 雨の日①

 6限終了のチャイムが鳴る。今日は終礼がないのですぐにいつものメンバーが集まった。


「思い出はいつの日も~♪」

「はいはい。」


「雨は〜手「はいはい」むぅーっ。」


「チャンチャンチャチャンチャン「はいはい」チャンチャンチャチャンチャン「はいはい」チャンチャンチャチャンチャン「はいはい」チャーンチャチャチャチャチャーンチャンサむぐっ!」


窓の外からはザァーと雨の音が聞こえる。だから桜は雨の歌を歌おうとしていたのだ。いつもなら海南さんやきいとかがやりそうだが、今日はこの2人は休み。甘えんぼテンションになった桜と熊野さんがじゃれ合っている。


「音羽、苦しい!」

「よいではないか、よいではないか〜!」

「やめれ!」


桜は熊野さんの手を剥がすと、肩を大きく上下させて息をする。奏は少し前にクラブに行ったから3人だ。


「帰ろうか。」


俺たちはそれぞれ鞄に荷物を詰め込んで帰路に着いた。


 おそらく、もうあまりないだろう顔合わせ。入学以来、熊野さんは大阪市内方面のクラスメイトと帰っているから、毎日桜と2人。でも今日はその友達も休みみたいで、このメンバーになった。


「ん〜っ。美味し〜!」


駅までの道中では、遠回りをすればコンビニがある。俺たちはそれぞれアイスを買って、中の飲食スペースで食べている。


「音羽、一口ちょうだい!」

「なら交換ね。」


女子たちが食べさせ合いをしているのを横目に俺はソフトクリームを食べ進める。


「あむっ。」


俺が少し食べる手を止めた隙に、桜が俺のを一口頬張る。


「こっちも美味し〜!」

「あのな桜、一声かけろよ。」

「ごめんね。食べました。」


こういうのは無反応に限る。俺はまた食べ進め、カップのコーヒーを飲む。飲み終わったときには桜たちももう食べ終わっていて、荷物をまとめていた。俺も手早く準備して店を出る。雨が降っていた。俺と熊野さんが傘を差すと、桜が熊野さんの傘に入った。


「え〜っ、また?」

「だって出すの面倒臭いんだもん。」


そう言って桜は熊野さんに抱きつき、何やら歌を歌いながら駅まで歩いた。


 ピピッと音を鳴らして改札を抜ける。


「じゃ私はこっちだから、また明日!」

「「バイバイ!」」


熊野さんは手を振りながら左側の階段を下りる。俺たちは右側の階段を下りた。誰もいないホームに立つ。向かい側には丁度準急が来ていた。こっちはあと3分で来る。ロータリーに近いからか、市議会議員の選挙演説で妙に騒がしい。桜は自販機でサイダーを買って飲んでいる。ぼーっとしていると、アナウンスが聞こえてくる。


「まもなく、1番線に準急出町柳行きが7両で到着します。黄色または緑の乗車位置、丸印の1番から7番でお待ちください。各駅に止まります。枚方市で特急に連絡します。」


アナウンスが終わると6000系がゆっくりと入ってくる。中はがらんとしていた。俺は中に入ると、桜と向かい合って立つ。


「久しぶりに乗ったわ。」

「梅田行った時、乗ったでしょ。」

「たしかにそんなこともあったな。」


最寄り駅に着くとさらに強い雨が降っていた。改札を出て荷物を置き、桜は傘を探す。鞄の中から手を抜くと、俺に笑顔を向けてきた。


「傘がない♪」

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