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第26話 俺たちの打ち上げ

「え〜、俺たちC組の球技大会優勝を祝して、乾杯!」

『カンパーイ!』


奏の号令でクラス全員がジュースの入ったグラスを突き上げる。今日は球技大会後最初の日曜日。俺たちは打ち上げに来ている。ここは梅田にある焼肉屋。90分食べ放題で2000円。みるみるうちに店内は煙が充満して、肉の焼ける音が聞こえてきた。


「うまぁい!」


海南さんが頬に手を当てて、ご満悦そうにしている。奏も同じような反応だ。


「Q、何でこんなにお肉焼くの上手いの?」

「たまに、家で一人焼肉してるから。」

「ごめん。寂しすぎたわ。」


熊野さんが申し訳なさそうに謝る。桜はそんなやりとりに目もくれず、肉を貪り食っていた。


「桜、草食え、草。」

「え〜っ。」

「ほらよ。」


俺は桜にサンチュを分ける。桜は嫌そうな顔をしながらも肉に巻いて食べていた。


「1巡目減ってきたな。みんな何食いたい?」

「「全種類2人前!」」


奏と海南さんが元気よく答える。まぁいいかと思い店員を呼んだ。直後、俺たちのテーブルは皿で埋め尽くされていた。


「うわぁ、どれから焼く?」

「タン!」

「ハラミ!」

「ミノ!」

「ロース!」

「肩ロース!」


全員違うものを要求する。俺は、はぁとため息をつき、近くにあるタンを手に取った。ジューと美味しそうな音を鳴らしながら、焦げ目がついていく。いい具合になったら振り分ける。次はロースを手に取り、焼く。全員でつまみながら、話題は球技大会の話になった。


「Qってどこにいたの?」

「相手コート側の端っこ。」

「マジ?」

「バレないの?」

「それがバレないんだよなぁ。」


海南さんは目を輝かせている。


「そういえば熊野さんはどこにいたの?」

「Qと同じ。」

「もしかしてこっち側。」

「そうそうそっち側。」


熊野さんと存在感薄いトークで盛り上がる。最後の一人の経験とか、じゃんけん大会で誰ともペア作れなかった話とか。横からは「やっべぇ分かんねぇ。」と奏が言っているのが聞こえた。


 気づけば90分などあっという間だった。俺たちは料金を払い、店の前で揃うのを待つ。そのあと、駅前のモニュメントの前で写真撮影をした。


「ありがとうございます。」


奏は撮ってもらった通りすがりの人からスマホを受け取って、何やら操作しながら戻ってきた。


「クラスRINE送っとくぞ。」


えっ、クラスRINEってあるの?知らないんですけど。奏くん酷くない?


「ちょっと待って、Q入れる!」


桜がそう叫ぶと俺のスマホが振動する。参加ボタンを押すとすぐに、今日のアルバムが送られてきた。そして、さっき撮った写真が送られてきた。そのあと、帰る方向別に別れて、お開きになった。


 寝る前にスマホを開く。見るのは勿論、今回の打ち上げのアルバム。1枚ずつ丁寧にスクロールしていく。画面には、まだ話したことのないクラスメートが映し出されている。端っこの方に俺が写っている写真を見つけて、少し安心した。


「俺、笑えててよかった。」


そのまま、スマホを抱えて、眠りについた。


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