「え〜、俺たちC組の球技大会優勝を祝して、乾杯!」
『カンパーイ!』
奏の号令でクラス全員がジュースの入ったグラスを突き上げる。今日は球技大会後最初の日曜日。俺たちは打ち上げに来ている。ここは梅田にある焼肉屋。90分食べ放題で2000円。みるみるうちに店内は煙が充満して、肉の焼ける音が聞こえてきた。
「うまぁい!」
海南さんが頬に手を当てて、ご満悦そうにしている。奏も同じような反応だ。
「Q、何でこんなにお肉焼くの上手いの?」
「たまに、家で一人焼肉してるから。」
「ごめん。寂しすぎたわ。」
熊野さんが申し訳なさそうに謝る。桜はそんなやりとりに目もくれず、肉を貪り食っていた。
「桜、草食え、草。」
「え〜っ。」
「ほらよ。」
俺は桜にサンチュを分ける。桜は嫌そうな顔をしながらも肉に巻いて食べていた。
「1巡目減ってきたな。みんな何食いたい?」
「「全種類2人前!」」
奏と海南さんが元気よく答える。まぁいいかと思い店員を呼んだ。直後、俺たちのテーブルは皿で埋め尽くされていた。
「うわぁ、どれから焼く?」
「タン!」
「ハラミ!」
「ミノ!」
「ロース!」
「肩ロース!」
全員違うものを要求する。俺は、はぁとため息をつき、近くにあるタンを手に取った。ジューと美味しそうな音を鳴らしながら、焦げ目がついていく。いい具合になったら振り分ける。次はロースを手に取り、焼く。全員でつまみながら、話題は球技大会の話になった。
「Qってどこにいたの?」
「相手コート側の端っこ。」
「マジ?」
「バレないの?」
「それがバレないんだよなぁ。」
海南さんは目を輝かせている。
「そういえば熊野さんはどこにいたの?」
「Qと同じ。」
「もしかしてこっち側。」
「そうそうそっち側。」
熊野さんと存在感薄いトークで盛り上がる。最後の一人の経験とか、じゃんけん大会で誰ともペア作れなかった話とか。横からは「やっべぇ分かんねぇ。」と奏が言っているのが聞こえた。
気づけば90分などあっという間だった。俺たちは料金を払い、店の前で揃うのを待つ。そのあと、駅前のモニュメントの前で写真撮影をした。
「ありがとうございます。」
奏は撮ってもらった通りすがりの人からスマホを受け取って、何やら操作しながら戻ってきた。
「クラスRINE送っとくぞ。」
えっ、クラスRINEってあるの?知らないんですけど。奏くん酷くない?
「ちょっと待って、Q入れる!」
桜がそう叫ぶと俺のスマホが振動する。参加ボタンを押すとすぐに、今日のアルバムが送られてきた。そして、さっき撮った写真が送られてきた。そのあと、帰る方向別に別れて、お開きになった。
寝る前にスマホを開く。見るのは勿論、今回の打ち上げのアルバム。1枚ずつ丁寧にスクロールしていく。画面には、まだ話したことのないクラスメートが映し出されている。端っこの方に俺が写っている写真を見つけて、少し安心した。
「俺、笑えててよかった。」
そのまま、スマホを抱えて、眠りについた。