灼熱の太陽に照らされて、名前も知らない生徒たちが汗を流す。いかにも青春の煌びやかな1ページのようだが、これに音声をつけると…
「オラァァァァ!」
「シャアァァァァ!」
「こいやぁぁぁぁ!」
一言でいえば地獄絵図だ。女子のほうはまだしも、男子はずっとこんな感じだ。そして俺はこういう雰囲気が大好きだ。
「Q楽しいな!」
「何が?」
「盛り上がってるし!」
「そうか?」
隣にいるQはどこか元気が無さそうだ。こういう空気苦手なのかな?俺は立ち上がり、肩を回す。さっきの試合で投げまくったから肩が痛い。
目の前ではうちのクラスの女子が試合をしている。制限時間は7分。今は4分を過ぎたところだが、相手チームはもう残り4人だ。なぜならうちの楓が強すぎるからだ。ソフト部や男子にも引けを取らない剛速球で相手をどんどん当てていく。あと2分のコールがかかったとき、相手は全滅していた。得点は内野に残った人数となっている。この試合なら12-0。女子に代わって男子がコートに入る。すれ違いざまに楓に肩を叩かれた。
「負けたらダッツ。」
「おう。」
それだけ交わして、楓は甘い香りを振りまいて待機場所に戻る。俺は、人工芝のグラウンドを踏みしめて、サイドラインを越えた。全員を集め、円陣を組む。
「このリード、無駄にゃしね〜ぞ!」
「ウオォォォ!」
試合は残り1分になった。まさかのまさかだ。相手の男子がマジで強い。今は1-13で負けている。このままいっても同点で女子の頑張りを無駄にすることになる。内野に残っているのはQ。野球部やバスケ部の猛攻を、いとも簡単に避けている。
「とれ〜!」
「ボールくれ〜!」
外野のメンバーは口々に叫んでいる。俺の体内時計であと30秒。もう無理かと思ったときだった。
―スポン―
相手チームの投げたボールが抜けた。Qは落下点の1歩後ろに立ち、ボールをとる。
―10
Qがボールを投げる。ふわりと浮いたボールはコートのバックラインを越え、外野の頭上も越えていく。
―9
俺は助走を始める。
―8
俺は飛んだ。ボールは空中で止まり、投げやすい高さをキープしている。
―7
俺は右手でボールを掴み、そのまま投げる。
―6
ボールは相手3人にあたって地面に転がった。
相手はそのボールをすぐに拾い上げ、Qに当てようとするが、もちろんQは当てられない。外野にボールが回ったときに、試合終了のホイッスルが鳴った。2-10。負けたものの、女子との合計点でこちらの勝利だ。男子たちは俺やQに飛びついて喜びを分かち合っている。一瞬、Qの顔が見えた。
「何だよ。楽しんでるじゃん。」
彼は笑っていた。