「どうも。橋本紀乃です。ひい君とは幼稚園からの付き合いで、小学校の頃には勉強を教えてくれてたんですよ。」
「それなのに忘れてたんだ。」
海南さんは新しいおもちゃを見つけたように笑っている。
「しょーがねぇだろ。中学校はバラバラだし、なんかガリ勉みたいになってるし。」
「うわ〜ん(笑)。楓ちゃ〜ん。ひい君酷すぎるぅ(爆笑)!」
「よぉ〜しよしよしよし(笑)。私が守ってやるからな(爆笑)。」
昔からそうだった。きいはコミュ力はめちゃくちゃ高かった。それは今でも健在で、ガリ勉風の見た目だからあまり話しかけられることもなく、ずっとウズウズしていたのだろう。
「お前の変わりようをみんなに見せてやろうぜ。卒アルぐらいあるだろ。」
「やったー!ひい君家久しぶりだ!」
きいが喜んでる横で桜が視線を送ってくる。
「(いいの?バレるけど。)」
「(どうせ今日話すべきだろ。)」
「(そういやみんな家に呼ぶんだったね。作詩のコツの特別講義とか。)」
「(そうそう。)」
「(じゃあ、しょうがないか。)」
目で会話を交わして、弁当の残りを食べる。途中、俺の黒歴史を話そうとしたきいの口を塞ぎながら食べていたので、いつもより10分ほど長くかかった。チャイムがなるときいは「装着!」と丸眼鏡をかけて自分の席に戻っていった。
放課後になった。俺は先に自転車を飛ばして最寄駅で待っていた。熊野さん以外はこの駅を使っているので、ピッピッピピッピッピッと改札の音がうっすら聞こえてきた。
「待ったか?」
「今来たとこ。」
「定型ぶほぉ。」
海南さんが馬鹿にしたように噴き出す。
「行くぞ。」
俺先導で歩き始め、裏道を抜け住宅街を歩く。2、3分したら俺の家が見えてきた。桜とアイコンタクトをとる。
「「ここが「俺」「私」達の家です。」」
「「「「はぁ?」」」」
玄関で杏ときいが抱き合っている中、俺たちはソファに腰掛けていた。
「で、どういうことかな?」
「すまん言葉が足りなかった。」
それから俺たちは今まであったことを事細かに話した。
「まとめると、桜のアパートが燃えて、行くところがなくなったからQの家にお世話になっていると。」
「そんなラブコメ展開あるか〜!」
「楓、あっちゃたのよ。ここに。」
「くそ〜。」
海南さんが分かりやすく悔しがる。
「ねえねえ、話終わった?じゃあ卒アル探しに行こ!」
きいが杏を抱き抱えて戻ってきた。
「じゃあ持ってくるわー。」
「みんなで行こーよ。」
「場所は分かってるから。」
「ケチ。」
部屋に入り、アルバムを取り出す。人差し指でつーっと縁をなぞって持って降りた。
「あった?」
「あったぞ。」
ソファでゴロゴロしているきいに背を向けるように座り、個人写真の6−2のページを開く。
「Qって昔、こんな感じだったんだ。」
「同一人物とは思えない…。」
今はコンタクトに変え、髪も少し長くした。今となってはあの頃が懐かしい。
「これが紀乃なの?」
「何ともアホっぽい顔。」
「IQ3を擬人化したような顔ね。」
「うるさい。」
女子3人の口撃にそう答えるきい。男子2人は何か言ったら殺されそうなので何も言えなかった。
「ああもう恥ずい。ひい君の黒歴史喋っちゃお!」
「やめ―」
「させるかよ。」
俺は加太くんに抑えられ、洗いざらい話された。