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第16話 俺の初回授業③

 昼休みの始まりを合図する、4時間目の終わりのチャイムが鳴る。普通ならここで仲のいい友達と昼食を食べるのだが、今日だけは違った。


「起立、気をつけ、礼。」

「「「お願いします。」」」


今日の他のどの授業よりも大きい号令がかかる。俺は教壇に立って静かになるのを待った。


「約束通り教えてやるが、俺も腹減ってるからな。ついてこいよ。」


俺がそう言うと「はい!」と大きな返事が返ってくる。それを聞いて話し始めた。


「1つ注意がある。初心者が作詞するのに重要なのは、技術よりも感覚だ。あくまで個人の意見だがな。まず、こんな感じで机を叩いてみる。」


俺は右手の人差し指と中指をテキトーにバラバラに動かして、パターンを作った。


「今叩いた音は基礎になる。この音を頭で再生しながら、鼻歌を歌ってみる。」


ふふふふーんとメロディを作っていく。バックのギターやベースもできないから、これは想像で補う。


「で、今できたのはこんな感じだ。」


そして俺は黒板に歌詞を書き始めた。


『春を

 問いかけて 問いかけてるんだ

 真っ白い問題用紙の上

 あられもない戯言を書き連ねてはかき消して

 僕は

 追いかけて 追いかけてるんだ

 標もない地図を広げ

 間違った青い正解を正す

 A.答えは知らない』


そして俺はこれを指しながら教え始める。


「最初は韻とか考えんくていい。俺も今パッと考えたヤツだから上手くないけど、なんとなくでもこんな感じで形になんねん。」

「先生、どうしてもアイディアが出て来なかったらどうしたらいいですか?」


女子が1人立ち上がった。えと、こんなやついたっけ。


「ん〜そうやな。好きな人のこと考えるとか。」


冗談まじりでそう答えた。そこら中で「おお〜」と声が上がる。一方その女子はボンと音を立てて顔を赤くしている。青いな。


「一言で言うと、作詞は慣れもある。来週までに納得いくまで書いてみたら、いいものができるんじゃねぇか。他、質問あったら直接来てくれ。んじゃ終わり。」

「気をつけ、礼。」

「「「ありがとうございました。」」」


10分ほど遅れた昼休みが始まる。それぞれ食堂に行ったり、机をくっつけたりして楽しいランチタイムをしている。俺は窓際のいつもの席で弁当を開いた。ただそうしているだけなのに、自然と人が集まってくるのはなぜだろう。モテ期きたかな?


「来てないよ。本当は音羽の周りに集まりたいけどQが動かないから。」


海南さんエスパーかよ。


「Qってさ、多分天才だよな。」

「分かる。」

「だね。」

「右どー。」


おいおい、そんな褒めても何も出ねぇぞ。嬉しいけど。


「あ、あの…。」


声をかけられた方向を見ると、見たことのある女子が立っていた。確か入学式のときに1人でいた女子だ。最近こういう雰囲気の人から話しかけることが少なかったので、自分を指差して確認するとこくりと頷いた。


「えっと、私のこと覚えてる?」

「えっ。」


作詩のことだと思っていたので、予想だにしない質問に頭がショートしそうになっていた。すると彼女は恥ずかしそうに丸眼鏡を外した。切り揃えた髪の隙間から見えた目には見覚えがあった。


「もしかして…きい、か?」

「何で気づかなかったのよ、ひい君。」


他の4人は俺に知り合いがいたことに驚いて「えぇ〜!」と叫んでいた。


よし、あとで殴ろう。加太くんだけ。

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