「気をつけ、礼、着席。」
チャイムと同時に日直の号令が響く。いかにも学校って感じだが、俺はこのシステムには懐疑的だ。こんなことをするくらいなら自習の時間を増やしてほしい。
「え〜、この3年間音楽の授業を担当します。磯浦仁です。よろしくお願いします。僕の授業は必要なのは教科書とやる気だけです。授業はプリントで進めるので、気になる人はファイルでも作ってください。今日は初回ということで授業はしません。」
所々から歓喜の声が聞こえてくる。
「なので1つ、お遊びというのもなんですが、軽く親交を深めるために、課題をやってもらおうと思います。」
そう言って先生はホワイトボードに大きな文字でこう書いた。
『作詞作曲をしてみよう。』
教室全体が「え〜」や「マジ?」で埋め尽くされる。中には現実から目を背けているのか、机に伏す人もいた。
「仲のいい人と2、3人のペアになってもらって、一曲書いてもらいます。テーマは『入学』か『桜』。どちらかをモチーフにして書いてください。さて広がった広がった。」
号令がかかると、いくつかのグループに分かれ始めた。でも結局、俺はいつものメンバーの二歩ほど後ろ。ここが一番気持ちいい。
「「だるっ。」」
海南さんと加太くんがハモった。まあそうだろう。俺だって第一印象は「は?」なんだから。
「いいよね〜ピアノできる桜と音羽は。」
「私は音羽に比べたら全然だし。」
「そんなこと言ってる楓もある程度は引けるでしょ。」
そう言って笑っている女子達を遠目に見ながら、加太くんの方に近寄る。
「(何このハイスペックな女子達)」
「(俺たち完全に足手まとい)」
「(そうだな)」
俺たちはただ眺めていた。それしかできなかった。
「でも、作詞がなぁ。」
「作詞ならQができるよ。」
まあまあ大きな声だった。クラスの全員の視線が突き刺さる。桜は「ごめん」と手を合わせた。
「由良君、歌詞書けるの?」
「教えて。」
たちまち俺の席からは平穏がなくなった。
「分かった、分かったから離れろ、暑い。」
一向に離してくれなそうだ。
「昼休み、教えてやるよ。」
そう言うと離れていって自分達の輪の中に入った。代わりに桜が近寄ってくる。
「ごめん。」
「別にいいよ、だけどあとで会議な。」
「あ〜、やっぱ怒ってる。」
桜は俺の脇腹を突いてくる。
「でも、教えれるの?」
「さあな。」
でも、一つだけ分かっていることがある。
嫌だ。