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第14話 俺の初回授業①

 「じゃあ、次の授業からは教科書とノートを忘れないように。はい起立。」


号令と同時にチャイムが聞こえてくる。今日はオリエンテーションの2日後、何の問題もなく初回授業が始まっている。俺以外は。


「家と一緒に焼けてたの忘れてたや。」

「よく忘れてたな。」

「お褒めに預かり光栄です。」

「褒めてねえぞ。」

「えへへ。」


桜は少し照れたような表情を見せる。


「数Aの先生、いい人そうでよかったね。」

「授業わかりやすいオーラが滲み出てた。」


海南さんと加太くんが俺の机にやってきて言う。


「あの感じなら質問とかもし易そう。」

「だね。」


熊野さんは机を反転させ、桜は椅子を持って来て言った。そう。この2日間で俺の机は溜まり場と化したのだ。


「Q、内職し易そうとか思ってない?」

「違うぞ。授業内自習だ。」

「するんだ…。」

「大丈夫。私が隠したげる。」


こんな何気ない会話でさえも、今までは楽しいなんて思ってない思えなかった。


「次の時間、何だっけ?」

「論表(論理表現の略)。」


チャイムが鳴って席に着く。説明を聞き流しながら退屈な50分間が過ぎていった。


「こちらはお固い。」

「落差やべえ。」

「Gかかりすぎ〜。」


海南さんが机をバンバン叩く。その揺れで俺の筆箱が落ちる。


「あっ、ごめっ。」

「いいよいいよ。」


俺と海南さんがペンを拾っていると、上で会話が始まった。


「音羽、次は?」

「音楽。」

「音楽、音楽か…。」


加太くんの声が細くなっていく。


「どしたん?奏っち。」

「あのな。」


俺たちはゴクリと唾を飲み込む。


「俺の兄貴がこの学校の出身でな。この音楽の磯浦とかいう先生、初回からエグい課題出してくるらしい。」

「Oh…。」


海南さんが頭を抱えて机に伏した。


「音楽の課題って写譜とかしかないじゃん、普通。まあ面倒臭いけどさ、エグいって何よ。どんなヤツ出してくんだよ。」

「すまん、詳しくは聞いてない。」

「奏っちの役立たず!」


キーっとして加太くんを睨む海南さんに、熊野さんがチョップを落とす。うずくまった海南さんを引きずって、音楽室に向かった。

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