まあ、このことをラブコメ的展開というのだろう。今日はオリエンテーション2日目。入学して4日目にして陰キャにはキツイ行事が来てしまった。昨日は校内の説明で、今日はグループワーク。グループは近くの席の人、つまり、有田さんと同じグループだ。あとは熊野さん、
「何気に由良と話すの初だわ〜。」
「奏っちもなんだ。私も私も〜。」
「みぎどー。」
加太くんのフルネームは、加太奏太郎。まだつるめそうな少年っぽい感じのやつだ。まあこの先話すこともないだろうが。
「桜は?」
頬杖をついて訊くのは海南楓。小動物的愛されキャラとでも売っているのだろう。陰キャにとってはウザキャラでしかないのだが。
「私はまあ話す方だと思うけど…隣だし…。」
どうやら有田さんは俺達の関係については話したくないらしい。今更だが有田桜。このクラスのマドンナだ。クラスでは容姿端麗の誰とでも気楽に接する人って感じだが、家での姿は、あぁ…って感じだ。
「だよね〜、一応ね〜。」
少し口角を上げながら言うのは熊野さん。熊野音羽。三人の中では静かな方だが、ノリは陽キャ寄りで、いざとなった時のツッコミ役だ。
「まあね。」
有田さんはテキトーに返した。
「ところでさ、由良っち『ワンピ』読んでんだよね。好きなシーンは?キャラは?」
「それあたしも気になった。」
「私もだよい。」
加太くん、熊野さん、海南さんがずいっと前に乗り出してくる。勿論、海南さんはアイタされてるわけだが。
「えと、好きなキャラはサボで、推しはうるちゃん。好きなシーンは兄弟盃だけど。」
「分かるわ〜。そのあと3人の昔の話だよな。」
「うるちゃん推し?ホント?本当?」
「サボはカッコよすぎ。」
何やかんやで盛り上がった。
講堂に移動して先生達のつまらない話を聞き流す。さすが大学の併設校といったところだ。将来の補償はしっかりされている。だが同じような話を何回もされているうちに、夢の中に潜ってしまった。
目覚めたときには部活動紹介ムービーが流れていた。ちなみに隣の有田さんはまだ寝息を立てている。ラグビー部の紹介が始まったところで、有田さんも目覚めた。
「おはよ。今どこらへん?」
「もうそろそろ終わるとこ。」
「そう、ありがと。久志くんも寝てたでしょ。」
「寝てたよ。成績の決め方の話ぐらいから。」
「私も。」
ふふっと口を押さえて有田さんは笑った。そうこうしているうちにオリエンテーションは終わりぞろぞろと教室に帰り始めていた。ひとまず、その波が収まるまで待つことにした。すると、
「桜〜、寝ちゃった〜。」
案の定、有田さんに海南さんが抱きついた。目を擦る様子を見ると熊野さんも加太くんも寝てしまったようだ。
「うわ〜ん。この後の作文絶対やばいよ〜。」
そうこのグループが作られたのも、今日の作文を通して高校生活をどうしたいか、所謂『抱負を書け』的な作文を書くためだ。それをグループ内で回し、仲を深めようというのだが…。
「まあ、どうにかなるだろ。」
「えぇ?そうかなぁ?奏っちの言うことだしな?」
「何だよ、バ楓。」
こんな会話を右目に『別に必要なくね?』と考える今日この頃の俺。
「あの2人ね、幼馴染なんだ。とってもお似合いだと思わない?」
「確かに、あのつねり合いは癒される。」
有田さんが教えてくれて、俺はそれに同意。隣で聞いていた熊野さんも大きく頷いている。そして、3人でハイタッチした。
「えっ?何?そういう空気?」
海南さんが両手を構える。俺たちはそれを無視して席を立った。
「みんなひどいよ〜。」
そのあともワイワイ騒いで教室に戻った。