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第8話  私のホットサンド

 誰かに引っ張られる感覚があった。薄く目を開ける。そこには私の手を剥がす由良君がいた。あっ、抱きついたまま寝ちゃったんだ。悪いことしたな。やがて手は完全に剥がされて由良君は立ち上がった。私は、彼の服の裾に手を伸ばしたが、届かなかった。一度寝返りをうって壁に向く。扉が閉まる音がしてから、今まで薄目だった目を完全に開けた。


「ん〜ん〜、んっ、〜〜〜」


頬が火照っていくのが分かる。枕に向けて言葉にならない叫びを繰り返しているのも、気付くのは私だけだ。自分が何でこんなことをしてしまったのか解らない。確かに由良君といると安心するし、楽しい。ちゃんと気遣いもできるし、杏ちゃんからも信頼されている。そして、彼のことを尊敬している。なぜだろうか、昨日からずっとこんな感じだ。1人になると彼のことを考えてしまう。彼が晩御飯を作っているときも、彼がお風呂に入っているときも、そして今も。私は彼のことでいっぱいだ。おかしくなりそうなくらい。


 そんなこんなでかれこれ小一時間。ずっと彼のことばかりだ。人はこれを恋だと言うのかもしれない。でも…



―これは恋なんかじゃない。今はそういうことにしておいてください。―



深呼吸をしてドアノブに手をかける。頬の熱はもう引いた、と思う。ゆっくりと階段を下りる。


「おはよう。」

「「おはよう。」」


やっぱりこの家族はいい家族だ。私もここにいられたら…


「朝から何考えてるんだ?難しい顔して。」

「べっ、別に。」


私はそっぽを向いて答える。


「ふふっ、そうか。朝はホットサンドだけど、具材何する?」


彼はエプロンの紐を括りながら訊いてくる。少し長い髪は後ろで括られていて、学校とのギャップがヤバい。


「具材は何でもいいよ。あと、もしよかったらなんだけど…久志君って呼んでいい?居候させてもらうのにいつまでも他人行儀なのもなんだし…」

「ああ、い、いいけど。」

「じゃあ朝御飯よろしくね、久志君!」

「うい。」


上機嫌にソファに座ってニュースを見る。キッチンからバターの香りが漂ってきて、お腹が鳴る。


「お腹すいたね!」


杏ちゃんが笑顔で言ってくる。


「うん。そうだね。」


私は杏ちゃんに抱きついた。


「できたぞって、動く気なさそうだな。俺も混ざっていいか?」


久志君がおどおどしながら訊いてくる。


「「ダ〜メッ!」」


私たちは笑いながら答えた。

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