目が覚めた。以外にもよく眠れたようだ。目を擦りながら身体を起こそうとする。何かに引っ張られる感覚があったので隣を見ると有田さんがいた。
「寝相悪っ。」
少しずつ彼女の腕を剥がしていく。立ち上がったとき、
「んんっ。」
と彼女が唸った。起こさないようにそっと歩き出し、リビングに下りる。
「おはよう、バカ兄。今日は早いね。」
「ああ、有田さんと買い物行くからな。服買わねえと。」
「ねえねえ
妹よ、こういうときに限っての『お兄ちゃん』呼びはズルいぞよ。断れるわけねぇじゃないか。
「ああ、いいぞ。有田さんが起きたら行くからな。準備しとけよ。」
「うん!」
杏は急いで着替えに上がった。
冷たいシャワーを浴びて、身体を起こしたあと、濃いめのコーヒーを飲んで一息つく。すると杏がおしゃれな服を着て下りてきた。
「どう?似合ってる?」
「似合ってるが、有田さんはもう少し起きないぞ。服シワシワになるけどそのままいるか?」
すると杏は目をうるうるさせながら言う。
「なんで先言わないのよ。バカ、ボケ、一生独身。」
俺の心に100のダメージ。狼狽えている間に、杏はぷんぷん怒りながら自分の部屋に戻る。
ニュースを見ながらコーヒーを啜る。テレビでは今週のニュースまとめをやっていた。結婚だの、熱愛報道だの、連続HRだの、本当に色々あったようだ。これは俺にとってもそうだと思う。あくまで1日のことだが、本当に密度が濃い。そんなことを思っていたら、口元が緩んできた。
「バカ兄、何かニヤニヤしてる。」
「杏、下りてきたか。何食いたい?」
「サンドイッチ!」
俺はキッチンに入る。そしてバウ・ルーとバター、6枚切りのパン、ハム、チーズ、レタスを出す。
「ホットサンドでいいか?」
「いつも任せるって言ってんじゃん。追い出すよ。」
「ごめんなさい。それだけはやめてください。本当にごめんなさい。」
俺はクマバチの羽音のようなスピードで謝る。そう、俺はこの家に置いてもらってるだけで、本当はもっと遠い学校に行って、一人暮らしをする予定だった。しかし、その学校に落ちたため、杏に口利きしてもらって、嫌々置いてもらっている状況だ。故にこの家の主導権は杏にある。
「桜さんがいい人だったから、家に置くのOKしたわけで、性格ゴミクズのやつだったら、どうなってたかわからないからね。特にウザ太みたいなやつだったら…」
本当、こいついい性格してやがる。
「ありがとよ。」
そう言って牛乳を差し出す。
「イラッときたらカルシウム!」
「殴るよ。」
「すんません。」
そう言って牛乳を飲む杏を見る。すると上からガチャっという音が聞こえた。
「おはよう。」
「「おはよう。」」