俺はダッシュで階段を上がり、杏の部屋の扉を開けようとする。鍵がかかっていた。ゆっくりと階段を下り、はぁとため息をつく。
「しょうがないから俺の部屋で寝て。」
「えっ?」
「俺はここで寝るから。」
「まだ4月だよ。寒いよ。風邪ひくよ。」
「大丈夫だって。」
「大丈夫じゃないよ。だから…」
1時間後、俺たちはベットとベットの端にいた。部屋も暗くしてお互いの顔が見えないので、平静を装っているように誤魔化せているが、実際のところ顔も真っ赤で、心の中では「〜〜〜〜〜」だの、「○△#$*¥&▲」だの叫んでいる。おそらく彼女も同じだろう。同じだと信じたい。
「ねえ。」
「何?」
「ありがとね。あと無理言っちゃってごめんね。」
「いいよそれくらい。」
「あと…」
少し間があった。彼女がこっちに転がってくる。背中に何かが触れた感触があった。
た・の・し・い・ね
「ああ、俺も楽し…」
すうと音を立てて、彼女は眠っていた。
「寝れねぇじゃねえか。」
俺は彼女を起こさないように立って、頭をクシャクシャ掻きむしりながら、勉強机の電気をつける。そして『極秘』と書かれたノートを取り出す。これは、作詞ノートだ。誰の目にもつかないよう、引き出しの奥の方に隠している。いつも使っている、細いシャープペンシルを手に取った。
『眠るの
君の隣でいつも通り
君の吐息に耳を澄ませながら
胸が高鳴る
何にも特徴のない 僕と話してて楽しいの?
まだ強張ったままさ 僕の身体も言葉も
夢を見ていたんだ 楽しい日々が来る夢を
だけどそれがただの夢だってことを
今までも今もただ信じていたんだ
眠るの
君の隣でいつも通り
転がれば肩が触れる距離
叶わない妄想をして
君の寝言に耳を澄ませながら
まだ眠れないの』
2番が思いつかなかったので、くしゃくしゃに丸めて捨てた。そしてベットに入った。