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第4話 俺たちは入学式④

「いつまで拗ねてるんだい?有田さん。」

「ぐずん。」


有田さんはソファのクッションに顔を突っ込んでいる。俺はスマホで永久保存中だ。


「ほら、風呂入ってっきな。服は妹の使っていいから。下着は…明日買いに行こう。」


すると有田さんはむくっと起き上がり、にこりと笑った。


「晩御飯はスパゲティ…あっ、撮ってる!」


彼女はまた、パフッとクッションに顔を突っ込む。このままだと動かなそうなので、仕方なく動画を止めた。


「動画止めたよ。動いて。」


彼女は小動物のように上目遣いで安全を確認して、体を起こし、パタパタと二階に上がっていった。赤色のジャージをとって、風呂場に駆け込む姿を見てから、俺は晩飯を作り始めた。


「久志くんの7分クッキング〜!パフパフ〜。」


自分で言うのも何だが、恥ずかしくなった。ちなみに今日作るのは手抜きパスタだ。麺をササッと茹でて、お吸い物の素で和える。ここで一工夫。それはパスタの茹で汁を少し混ぜることだ。これだけでグッと風味が増す。さらに盛り付けていると、髪も濡れたままの有田さんがタオル一枚で出てきた。反射的に目を逸らす。すると彼女は何かに気づいたように大きく息を吸って


「ご、ごめん。」


と言いながら逃げるようにその場を立ち去った。大きかったな。そんなことを考える俺の頬は赤く染まっていった。


 悶々とした空気でパスタを口に運ぶ。


「「あのっ。」」


同じタイミングで口を開いた。どうぞ、と有田さんが譲ってくれる。


「両親に連絡はした?」

「したはしたけど、地元で働いているから。学校来るために一人暮らし始めたんだ。そういう由良君こそ。」

「うちは海外で働いてるから、杏と二人暮らし。」

「そう。」


また無音になった。


「食べ終わったら続きやろ。」


少し恥ずかしがりながら言う。


「いいけど、由良君、お風呂行ってきたら。」

「んじゃ、お言葉に甘えて。」


食器を片付け、風呂場に向かう。部屋着は明日も着るので、そこらへんに掛けておいた。中に入って自分のタオルに手を伸ばす。しっとりと濡れていた。


「はあ、まずいなぁ。」


俺は手で体を洗い始めた。


 リビングに戻ると、ソファの右の方に有田さんが座っていた。コントローラーを握ってウキウキしている。


「早くやろ!」


彼女は足をパタパタさせながら言った。


「はいはい。さっきの続きでいいよね。」

「うん。」


お互いにキャラを選ぶ。彼女は基本的にじわじわとダメージを与えて倒す戦法。ゆえに俺が使う被ダメージに応じて攻撃力が上がるキャラは相性がいい。まずは一勝。すると彼女が言ってくる。


「そのキャラ禁止。」


膨れ顔と泣きそうな声をされるとダメだ。もう使いませんよ。安心してね。


 それからも火力攻めをし続ける。彼女は10戦中1回も勝てなかった。クッションに頭を突っ込んで、言葉にもならない声で叫んでいた。


「ただいまでーす。あっゴミ兄たち、ス○ブラやってる。杏もやる!」

「はいはい。まずは手を洗ってこい。楽しかったか?」

「うん!」


杏は洗面台に駆けて行った。


「仲良いね。」

「兄妹ですから。」


手を洗ってきた杏が出てきた。


「で、どちら様でしょうか?」


壁の裏に隠れて、不安そうな声で訊く。杏は、いつもは明るいキャラで過ごしているが、実は超ド級の人見知りだ。


「そうですよね。どうも有田桜です。由良君とは隣の席で…えっと色々ありましてここに居候させてもらうことになりました。」

「そうですか。杏です。このゴミ兄がお世話になってます。よろしくです。」


杏は急に笑顔になった。この顔は安心できる人にしか見せない顔だ。


「じゃあ杏は桜さんの膝の上!」

「座りにくくない?高さいける?」


流石のコミュ力だ。俺は関心していた。


「ゴミ兄、準備しろ!」

「うい。」


そのあと、3人で眠くなるまでゲームした。


 11時過ぎになった。


「ふわぁ。」


眠そうにする杏。限界も近そうだ。


「そろそろお開きにするぞ。杏はちゃちゃっと風呂入って寝ろ。」

「うん。」


目を擦りながら風呂場に向かう杏を見送る。お菓子の袋とかコップとかを片付けて、コーヒーを入れて一息つく。そうこうしてるうちに、杏が戻ってきた。


「おやすみ。」

「「おやすみ。」」


杏がゆっくりと階段を上る音が聞こえてくる。パタンと扉が閉まる音がして、安心してコーヒーを飲み干した。


「あの私はどこで寝ればいいのかな?」

「あっ。」


忘れてた…

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