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第12話



「母上、こっちです!」


アレクシスは小さな手で前方を指し示しながら、私を導いていく。秘密の場所だということで、カイルには少し離れた場所で待ってもらっている。


ふと目を向けると、緑に囲まれた細い小道が続いていた。まるで物語の中に迷い込んだかのような静寂と神秘。足元には冷たい空気がまとわりつき、小道の先には古びた石のベンチが一つ、控えめに佇んでいた。


その周囲には色とりどりの花々が咲き乱れ、甘い香りがふんわりと漂っている。なんとも美しい場所――なのだが、どこか寂しげな雰囲気がある。


(これが…アレクシスの秘密の場所…?)


私はその景色に心を奪われ、気がつけば足を踏み入れていた。


「どうして、私を連れてきてくれたの?」

そう尋ねると、アレクシスは真剣な表情で口を開いた。


「母上に、大事な話があるんです」


その言葉に、胸がざわつく。

大事な話? いったい何を――?


「母上、私はここに来ると…すべての過ちが許された気分になるんです」


私は思わず動きを止めた。

え? ちょっと待って。


5歳児がそんな深刻そうなこと言う?

君、何周目の人生生きてるの?!


心の中で全力でツッコミを入れる私の前で、アレクシスはその美しい瞳を真剣に見開いている。


「な、悩みでもあるの?」

恐る恐る聞くと、彼の表情がさらに鋭くなる。


「母上は後悔していること、ありますか?」


その言葉に、思わず心臓が止まりかけた。5歳児からの精神攻撃、効果抜群。


「後悔…してること?」

正直、ありますけど、それ聞いてどうするつもり?


でもその真剣な瞳に押され、私は小さく息をつきながら答えた。


「ええ、もちろんあるわよ」


すると、アレクシスの顔がぐっと近づいてくる。距離が近い、近いって!


「具体的には、どんなことですか?」


その問いに、私は思わず考え込んでしまう。だが、ふとしたアイデアが浮かび、軽い調子で答えた。


「そうねえ…昨日のお昼に出たスイーツ、おいしかったのに遠慮しちゃって、もっと食べなかったことかな」


数秒の静寂――。


次の瞬間、アレクシスは目を丸くし、突如として大爆笑を始めた。


「母上、それが後悔ですか!?」


お腹を抱え、涙を浮かべて笑い転げるアレクシス。さっきまでの緊張感はどこへやら、完全に笑いの渦に飲み込まれている。


「な、なによ急に!」


困惑する私をよそに、アレクシスは顔を上げ、にこっと笑った。


「ほんとに母上って面白いですね!」  


ついさっきまでの重い空気が嘘のように、彼は屈託のない笑顔を見せた。そのあまりの変わりように、私は思わず首をかしげたが、アレクシスが楽しそうなので良しとすることにした。


その後、私たちはしばらく黙って歩き続けた。静寂に包まれたその場所で、アレクシスの笑顔を思い浮かべながら、彼の持つ謎がますます深まっていくような気がしていた。  


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