「え? 母上って?」
背後を振り返ると、そこには金色の髪を持つ美しい少年が佇んでいた。
あ…アレクシス。
どうしてここに息子が!? たしか、彼は勉強中だったはずなのに…。
カイルは慌てて身を正し、アレクシスに深々と頭を下げた。
「アレクシス様、失礼いたしました。」
その声には、少しばかりの緊張が感じられる。
カイルがどれほどこの若き公爵の息子を尊敬しているか、私にも伝わってきた。
「母上、僕もご一緒してもいいですか?」
「…アレクシス? あなたはこの時間、授業では…」
「母上が窓から見えたので、走ってきちゃいました」
それって授業をさぼったってこと?
うーん、私怒られないかなぁ…
カイルも何かを察したのか、私の顔を見つめる。
その視線に気づいて、少し焦る。
「あ、あの、アレクシス? ちゃんと授業は…?」
アレクシスはにっこりと笑い、まるで何事もなかったかのように無邪気に答えた。
「ああ、母上が窓から見えたので、つい走ってきちゃいました」
「…そ、そう…」
全く答えになってないわ。カイルも何かを察したのか、じーっと私を見ている。
ここ最近思うんだけど、アレクシスってこんなキャラだったっけ…?
確か、攻略キャラの中でもどこか影のある毒舌キャラだったはずだけど、
今の彼はどこか無邪気で素直な笑顔を見せている。
まだ幼少期だから、少しは違うのだろうか…?
でも、私が転生に気づくまではこんなに素直な感じではなく、
いつも毒舌を吐いていたような気がするのに…。
「母上、僕のとっておきの場所に連れて行ってあげるよ」
アレクシスが、少し得意げに下から覗き込むように言った。
なんだろう…相手はまだたったの5歳で、無邪気に言っているだけのはずなのに…。
『どうしてか、まるで口説かれているような感覚になるのは…』
アレクシスが再び、ニヤリと笑って
「ほら、母上!僕の手を取って」と、今度はさらに可愛らしい笑顔で手を差し伸べてきた。
私は思わず言われるがままに、その小さな手を素直に握った。
すると、アレクシスの小さな手が、私の手をしっかりと包み込むように握り返してきた…
と思ったら、まさかの恋人つなぎ?!
「え、これって…」
私は思わず自分の手を見る。
彼の小さな指が、私の指に絡む様子に目を見開く。
いやいや、ちょっと待って!
ちらりと彼を見ると、一瞬だけニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべたかと思うと、
すぐに無邪気な笑顔へと変わった。
う…うん?
アレクシスはまだ5歳だし、この意味はわかっていないはずよね?
まあ、親子だし…?
きっと私が恋愛経験ゼロのオタクだから、
自意識過剰になってるだけ…だよね?