「おお、ソフィア様!今日もなんと、太陽も嫉妬するその輝かしいお姿!」
その声は青空に向かって響き渡った。
私は思わず足を止め、ちらりと振り返る。熱のこもった眼差しをこちらに向けるのは、つい最近私の専属騎士となったカイルだ。
「はぁ……」
思わず深いため息が漏れた。庭を散歩するだけで、ここまで熱い騎士に付きまとわれるなんて、私の人生どうなってるのかしら。
「このカイル、命に代えてもソフィア様をお守り申し上げます!草の葉一枚たりともソフィア様に触れさせません!」
カイルは剣を抱え、誇らしげに胸を張る。
「…」
どうしてこんなにも全力なのかしら…と、ため息をつきたくなる。
だが、私は言葉を飲み込み、無表情を保ったまま再び歩き出した。ここで何か言い返せば、きっと彼の熱がさらに上がるだけだと理解していたからだ。
こうなってしまったのは、あの日のこと――。 明らかに普段とは様子が違うエドガーに押し切られ、カイルを専属騎士にするという申し出を断れなかったのが原因だ。あのときの私に説教してやりたい。
けれど、ここで諦めたら私の命運は尽きる。今は逃げることが何よりも優先だ。
脱出プランを練り直しながら、私はひらめいた。
『カイルを利用する。』
考えれば考えるほど、彼の存在が案外役に立つ気がしてきた。確かに鬱陶しいけれど、彼は情に厚い。そして、この国でも屈指の実力を誇る騎士である。少なくとも、ひとりで国外に逃げるよりは安全だろう。
問題は、どうやって彼を味方につけるかだ。
色じかけは無理だ。あの鈍感さでは気づかれるはずもないし、仮に気づいたところで正面から断られそうだ。ではどうすればいいのか。
私は窓の外を見つめながら考え込む。月明かりが庭の木々を優しく照らし、静寂の中で自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえた。
「ソフィア様、大丈夫ですか?」 背後からカイルの心配そうな声が聞こえてくる。
その瞬間、私は決めた。ここは演技だ。儚げなヒロインを装い、彼を完全にこちらのペースに引き込む。
カイルに向き直った私は、小さく息を吸い込んだ。瞳を少し潤ませるようにして、儚げな表情を作る。彼の注意を引くには、まずこれが一番効果的なはずだ。
「カイル、実は……」
震える声で切り出したその瞬間――。
「母上。」
低く澄んだ声が、下から響いた。