「ソフィア、お前は俺たちにとって邪魔者などではない。」
――いやいやいや!
ちょっと待って、冷静になって?
なにこの親子の全力シリアス連携プレイ!?
私のメンタルがもう崩壊寸前なんですけど!?
深呼吸しよう。冷静に――冷静に考えるのよ。
私は計画を練りに練って、命がけで導き出したの。
推したちが幸せになり、私も無事でいられる唯一無二の答えは――国外逃亡しかないって!
もちろん、推したちのことは大好きです。
ほんの一瞬でも、あなたたちと「家族」でいられたこと、本当に嬉しかった。
でもね、それと命を賭けるのは話が別なのよ!
私が死ぬなんて絶対に嫌!でも、推したちを傷つけるなんてもっと嫌!
だから、私は自分の命を守りつつ、推しを守るために、涙を飲んで(心の中で)この決断を下したの!
……なのに、なんですかこの親子の無駄に麗しい表情は。
目に涙まで浮かべて、私を見つめるのはやめてほしい。
――もう無理。心がもたない。
震える手で胸を押さえながら、なんとか声を振り絞った。
「私は……そうは思わないわ。」
――いや、何言ってんの私!?
頭の中で自分に全力でツッコミを入れるも、口に出た言葉は戻せない。
仕方がないので、こう付け足した。
「私……疲れてしまったの。一人にしてほしいわ。」
そう言いながら、真顔でドアを指差し、夫と息子を強引に部屋から追い出した。
バタン、と扉が閉まり、訪れた静寂。
「ふう……」
やっと計画を練り直せる。キャラが崩壊する前に追い出せてよかった、と胸をなでおろした。
――だが、このときの私は知らなかった。
追い出された親子が廊下で、ものすごい誤解をしながら作戦会議を始めていたことに。
「父上……やはり、母上は自ら命を断とうとしているのでは……?」
「……ああ。彼女はこれまでも、一人で多くを抱え込みすぎていたのかもしれない。」
「なんて高潔な方なんだ母上は……!」
「だが、このままでは壊れてしまう。この状況を打破せねばならん。」
「分かりました!これから僕が24時間体制で母上を見守ります!」
「いや、それでは不十分だ。ここはプロを雇うべきだ。最強の護衛をつける。」
わずかな時間で瞬く間に作戦が進行する親子。
一方その頃、部屋の中でソフィアは、彼らの動きなど微塵も知らないまま、
「逃亡ルート、北がいいか南がいいか」
という新たな人生の岐路について、全力で悩み始めていたのだった――。